薬のコラムNo.140:本「 医者には聞けないインフルエンザ・ワクチンと薬」母里啓子,山本英彦,浜六郎 監修 ジャパンマシニスト社

ここ数年のインフルエンザパニックはすごいものです.たとえば昨年世界の抗インフルエンザ薬の半分以上を日本で消費したという事態は極めて非科学的であ り,異常です.学童接種という,世界に先駆けた無策のおかげで明らかになったインフルエンザワクチンの無効性を発信するのは,私たち医療人の努めと考えま す.

監修者の一人,母里氏は,前橋デ−タをまとめた中心人物で,ワクチントークの代表です.感染症,ワクチン製造,公衆衛生に造詣が深く,「インフルエンザ はかぜじゃ」と言い,効く効かない論議以前にインフルエンザワクチンは必要なしと語る氏の論理は明快です.ワクチン製造が如何に効率重視で,効果安全性は 二の次という実態暴露部分も圧巻です.

浜氏は,薬の安全と適正使用を追求し続けている方で,解熱剤とインフルエンザ脳症の関係を,最初に指摘した人物です.インフルエンザの特効薬とされるタ ミフルについても,副作用が多く,必要なしと断罪しています.ごく最近,タミフルの一歳未満への使用を中止するという製薬会社からのニュースが問題になり ましたが,本書はこの点から見ても先見の書です.

このような両巨人と一緒に,インフルエンザ関連脳症を中心に監修させて頂きました.NSAIDsが日本特有のインフルエンザ関連脳症の危険因子であるこ とは,いまや明白です.不十分な疫学データーにもかかわらず,脳症の死亡率の減少はこれを如実に物語っています.本書では,遺伝や血液検査でのメカニズム 追求に目がいっている今後の脳症研究について,診断基準をきっちりとした上でのさらなる疫学的エビデンスに基づく研究を深めるよう強調しました.

読みやすい内容ですが,かなり高度な内容の本ができたと思います.わかりやすさは,文章や構成,編集,企画を担当して頂いた高橋,伊藤氏らの尽力によるものです.

(2004年1月)