精神障害通院医療公費負担制度を中心に−受診抑制,再発増加は必至

「障害者自立支援」医療の概要
精神障害通院医療公費負担制度を中心に−受診抑制,再発増加は必至
「障害者自立支援」法施行に伴い,4月1日から「障害者自立支援」医療制度が開始される。要点は以下の3点である。①身体障害,知的障害,精神障害通院 の各公費負担医療制度(更生医療,育成医療,精神障害通院医療(通称32条))が廃止され,一律原則10%負担となる。②健康保険同一世帯で一定所得があ る場合は「重度かつ継続」に該当しなければ公費負担からはずれ医療保険の30%負担となる。③指定医療機関と指定調剤薬局でなければ「自立支援」医療を提 供できなくなる。
精神科通院医療公費負担制度(通称32条)は,精神障害者に対するほとんど唯一の医療保障として,精神科受診を容易にして再発を防ぎ精神障害者の地域生 活を支えるのに不可欠な役割を担ってきた。医療保険の30%負担のうち25%を都道府県(政令市)が負担し本人負担は5%,多くの自治体では独自の公費負 担制度によって国保加入者は自己負担なしだった。因みに,育成医療,更生医療では30%負担は公費負担で,自己負担が生じても応能負担とされていた。
10%負担への変更に伴い,多くの自治体が独自の公費負担をやめる動きが出ており,大幅な自己負担増となる。自己負担額は,市町村民税(所得割)20万 円以上の世帯では,「重度かつ継続」でなければ30%負担となる。市町村民税非課税では上限は2500円または5000円。市町村民税(所得割)20万円 未満は,「重度かつ継続」であれば上限は5000円または10000円だが,「重度かつ継続」に該当しなければ対象外で30%負担となる。精神科通院医療 ではデイケア毎日通所者以外は上限に達することがないので,上限設定の恩恵は受けない。
32条では公費負担診断書作成が2年ごと更新だったが,「自立支援」医療では毎年必要となり,毎年税額証明を受けなければならなくなる。Aクリニック通 院でB病院にデイナイトケア通所しC調剤薬局で薬をもらいD訪問看護ステーションから訪問看護を受けている場合,各医療機関の利用をあらかじめ申請しなけ ればならず,たまたまE調剤薬局で薬をもらうと30%自己負担を請求される。また,毎月A,B,C,Dの各医療機関での支払額を自ら累計しておき上限負担 額を上回らないように工夫しなければならない。社会的な手続きや対人関係に障害をもつ精神障害者にとっては極めて過酷なことが強いられることになる。
自己負担増,手続きの煩雑化,自己負担額の自己管理の負担によって,受診抑制,医療中断,再発が増えるおそれが強い。精神障害者に対する医療保障という 32条の理念は「自立支援」医療ではうかがえない。生活保護を含め低所得者が多い精神障害者に対する公費負担医療制度の拡充こそが必要である。
(2006年3月)