2005年7月,厚生労働省から突然現行の麻疹ワクチン,風疹ワクチンの単独接種による公的接種を廃止,麻疹風疹の混合ワクチン(以後MRワクチンと呼 ぶ)だけを公的接種の対象とするという内容の政令が公布された。実施開始時期である2006年4月を前に,さまざまな問題点が浮かび上がる中,3月31 日,厚労省は土壇場で麻疹,風疹ワクチンの単独接種も公的接種とする旨の通達を出すに至った。なぜ厚労省は方針を変更したのだろうか?今回のドタバタが日 本の予防接種体系の弱点を象徴していると思われるので分析した。
今回,接種時期にかかわらず麻疹,風疹の単独ワクチンを予防接種法に基づく対象ワクチンからはずし,MRワクチンだけを対象とするはずだった。さらに接 種回数を現行の1回から2回とすることになった。それに対し,麻疹,風疹の単独ワクチンを復活させ,二回接種はそのまま残したのが最終方針である。
第一の問題点はMRワクチンの安全性に対する検討が不十分なことである。周知のように,今回のMRワクチンはかってのMMRワクチンからムンプス(おた ふく風邪)ワクチンを除いただけのものである。MMRワクチンはムンプスワクチンによる無菌性髄膜炎の多発(1500名を超える)によって中断となったワ クチンである。詳細は省くが,日本でMMRワクチンの被害が未曾有の規模に拡大したのは,早期からの副作用発生情報を無視するなどのサーベイランスの欠 如,三つの製薬会社からのワクチンを折衷して統一MMRワクチンを作ったという科学性無視など,構造的なものである。今回のMRワクチンはこの構造にのっ たままのワクチンである。現に,実際の野外実験は2-300名の規模で行ったに過ぎず,そんなワクチンをいきなり事実上の義務接種にするということはきわ めて危険である。
第二の問題点は二回接種の根拠がはっきりしないということである。アメリカの場合,MMRの二回接種の理由は一次ワクチン不善をカバーするためだといわ れる。つまり,一回の接種で免疫が確立しない例が5%位あるが,その5%に対して二回目の接種でカバーするというのが二回接種の目的だとされる。日本の場 合はどうだろうか?麻疹輸出国として有名なのは誰もが知るところである。罹患者統計をみると,日本の麻疹罹患は1歳台をピークとし,6ヶ月−1歳未満が次 ぎ,以降は2歳台から漸減,9歳以後はほぼ同数となる。これを見ても明らかなように,日本の麻疹対策は1歳台をどうするかである。現行制度での麻疹ワクチ ン接種率については2000年推定80%,2003年は1歳台65%,2歳台90%である。1歳台の接種率を上げること,これが日本の麻疹対策の第一であ ることは自明であろう。
3. 現場の混乱と本質
厚労省が簡単に方針を変えた背景は,別の観点から言えば,サーベイランスや副作用を勘案する等の,科学的根拠を持った方針ではないと言う点であろう。これが今回のドタバタ劇の本質であり,だからこそ我々からの科学的なワクチンの追求が必要と考える。