妊婦死亡の不可解な報道(2008年10月)

10月22日のマスコミはいっせいに,脳出血の妊婦が救急体制不備のために死亡した由の報道をしました。新聞では,全国紙読売・産経・毎日が一面トップで,朝日もトップではありませんが一面で報道しました。
22日の報道の特徴は,東京都立墨東病院が入院をことわったことが中心であることです。その他の6病院の名前はほとんど出てきません。産経新聞には石原 都知事は「あってはならないこと・・・・・・今回については経緯を調べて対処する。」とまるきり他人事のようなコメントが書かれています。翌日の23日に は,読売・朝日が社説,産経は主張,毎日は一面トップであつかっています。用意のいいことに,多くの解説記事が載っています。それもそのはず,この「事 件」は18日も前に発生したものです。上記の各紙は十分準備して一斉に報道したのです。

しかも,読売社説は「必要な医師が計画的に配置されていない現状がある」と主張し,産経はもっとストレートに「救急システムを改善せよ」と,かかりつけ 医は頭痛を告げたのに墨東病院は聞いていないという意思疎通の問題をあげて,連携が大事としています。朝日も「救急医療にもっと連携を」と題して,「医師 不足を解消する努力はむろん大切だが,病院や医師の間で連携に知恵を絞ることはすぐにでもできる。」と文章を終わっています。

要するに,どの新聞も医療機関が努力して,医師の配置を改善しなさい,連携しなさい,情報を伝えるための「システム」作りの努力をしなさい,と医療機関 に責任を押しつけているだけなのです。ただちに十分な医療費をつぎ込む必要があるとは述べていないし,病院が合理化に追い立てられて,とても救急体制どこ ろではない現状を,改善しろとは書いていないのです。

また,産科問題は医師不足だけではありません。分娩数は時期によって大きな波があります。にもかかわらず,産科には常時ベッドを埋めろという有形無形の 圧力があります。救急患者のために対処できる収入が保障されていないことが根本問題です。満床にするために救急をとれ,昼間も働けといわれます。産科医が やめて行くのは当然です。

ところで,墨東病院は日赤・日大板橋・慶応・慈恵青戸各病院が断る中で,1時間20分程度で産科部長を呼び出して入院の対応をしています。りっぱです。 それなのに各紙一面で口をそろえて墨東病院批判を展開しています。都から事件としてリークされていることも考えれば,都立病院の民営化との関連が疑われま す。政府の医療政策の失敗を,都立病院など公立病院の民営化・合理化にすりかえられてはなりません。

2008.10 H