インフルエンザ迅速検査の意味は?(2008年12月)

インフルエンザ迅速検査の意味は?

以前,このニュースで,インフルエンザワクチン接種群の方が,症状が同じ程度出ていても,インフルエンザ迅速検査や培養では陰性が多くなることをお伝え しました。その理由を考え続けていますが,なかなかはっきりした理論を構築できません。今考えていることを以下にお示ししますので,皆さんからご意見をい ただきたく思います。第一の可能性として,インフルエンザの感染そのものが少なくなる。この場合,ワクチンによりインフルエンザウイルス感染を免れた人も同様の症状を出して いるのだから,その症状は他のウイルスによる症状だと考えられます。これは一つのウイルスに感染していると,他のウイルス感染をさせない機構が働くためと 思われます。これを「干渉interference」とよんでいて,インターフェロンはこの現象から命名されたようです。この例として,菅谷らはインフル エンザが流行する時期にはRSが減る,という観察研究を発表しています。
RSウイルスが減るのなら,インフルエンザの流行は赤ちゃんには吉報です。逆にワクチンはRSなどを追い出すインフルエンザの力を抑えてしまうのかも知れません。

第二の可能性として,インフルエンザ感染により同様の症状が出現していても,インフルエンザワクチンにより鼻粘膜でのウイルス増殖自体は抑制される。
しかし現行の不活化HAワクチンは,血中の抗体の誘導だけしかしないので,粘膜の免疫力は少ないのです。また,インフルエンザウイルスは感染しても呼吸 器粘膜で増殖し,通常は血中から全身にまわらないため,鼻粘膜のウイルス量が少なければ症状が出現しないことが考えられます。
さらに,インフルエンザ初期には高熱を出していても迅速反応は陰性に出る場合が多いことや,インフルエンザ培養が陰性でも血清反応で陽性に出ることがあることを考えれば,迅速検査や培養では陰性に出ても,インフルエンザウイルスに感染していることは十分考えられます。

第三の可能性として,インフルエンザウイルスの増殖は抑えないが,検査が偽陰性となる。培養であれば,HA活性を測定し,陽性ならHI試験で型別を行い ますが,この際HA抗体がウイルスのHA活性を弱めていると陰性と判定される可能性があります。核酸に対する抗体を調べる迅速検査でも,HA抗体による影 響がなんらかの形で,モノクローナル抗体と核酸との反応に影響を与えていることもあるかも知れません。

浜先生や共著者の山本英彦氏,アドバイザーの柳氏から意見をいただきましたが,なかなかうまくまとまりません。ともかく,以上のような,可能性を考えながら,ワクチンの効果を再検討してゆきたいと考えています。皆さんからさらにご教示いただければありがたいです。

2008.12 はやし小児科 林