メタボリックシンドローム診断への疑問:CTによる内臓脂肪面積測定に意味はあるか?

Medical Tribuneという新聞があります。製薬害者や医療関連企業の宣伝媒体です。それが故に時々おもしろい記事があります。今回は,少し前ですが5月22日 号に載った第15回日本CT健診学会(以下「学会」)の報告で,メタボ健診システムの中でCTの意味合いが薄れていることに対するCT業界の焦りが現れて いる記事を紹介します。

メタボ健診の中で,当初から重要視されていたのが「内臓脂肪測定」です。日本的メタボを編み出した?元大阪大学教授の松澤佑次氏は,腹囲はあまり信用で きないのでCTによる内臓脂肪を測定することが臨床現場では大切だと強調しています。ところが,この内臓脂肪の測定自体の意味がとても曖昧で,病的状態の 診断としてはまるきり意味をなさないことは医問研ニュース388(07年12月)号でも明らかにしました。 そういう批判を各方面から受けたのでしょう。 この「学会」では「特定健診・特定保健指導への(CT)導入に向けて」というパネルディスカッションを行ないました。

日立製作所日立健康管理センターからの報告では「メタボリックシンドロームの高リスク者検出に有用」だったのだそうです。その中味とは,内臓脂肪は BMIや体脂肪率と比べて,中性脂肪,HDLコレステロール,空腹時血糖,HbA1c値,血圧と強い相関があったのだそうです。また内臓脂肪が多い人ほ ど,血圧・脂質・血糖のメタボ基準を満たす項目が多かったとか,空腹時血中インスリン値およびインスリン抵抗性指数値が高値であったとかが,その内容で す。皆さんどう思われます? これなら,中性脂肪,血糖や血圧を直接測った方がずっと良いわけで,CTをして内臓脂肪を調べる意味などでてきません。血液 検査の異常を最終的なものさしにする限り,CTを取る積極的な意味が全くないわけです。

しかも,CTは検査料金が6600円はするので,特定健診の実施主体である健康保険者の理解を得るのが難しい。そこで「特定健診受診者を腹囲測定実施群 とCT群にランダムに割り付け,糖尿病などの患者・予備軍の減少率を前向きに比較検討するRCTを実施」すれば,特定健診の「詳細健診において内臓脂肪を 追加できる可能性がある」と指摘した,のだそうです。どうして,まるきりずさんな腹囲測定とCTによる内臓脂肪面積測定を比較するのでしょうか?血糖や血 圧などを調べた群と,なぜ比較しないのでしょうか? なんとしても,CTを特定健診に導入して,CTを大量に売りたいという欲望そのままの学会内容です。 それもそのはず,この「学会」の第15回大会長は日立製作所日立健康管理センター放射線診断科・中川徹氏だったのです。

今後はCTの放射線被曝の問題から,理論的にCTを導入した健診に対する批判が大変重要性を持ってきています。世界の3分の1のCTを持ち,ガンを増や している日本の医療にさらにCTを導入しようとしている日立や東芝の希望ではなく,本当に市民の健康を守る立場に立つために,この問題に取り組んでゆく必 要があると思われます。

H