インフルエンザに対するタミフル・リレンザの使用が「新型」インフルエンザを契機に大幅に拡大 コクランレビューは季節性インフルエンザへは使用すべきでないとしているが…。

WHOやCDCは,一般の人にはタミフル・リレンザは使わないが「ハイリスクグループ」には使うべきとしました。このハイリスクグループの中に「5才以 下の乳幼児」と「妊婦」を入れることで,これまで製造発売企業ロッシュ・中外でさえ,適応外としてきた1才未満の乳児や,使用を制限してきた妊婦に,タミ フルを積極的に使うように勧告したわけです。
動物実験では,生後間もないほどタミフル投与による死亡率が高いことが明確です。また日本小児科学会が1才未満の児にタミフルを投与した観察研究では, 詳しいデータは手に入りませんが「低体温」が多発しており,乳幼児で発生している突然死のさらに高い発生を強く示唆しています。1歳未満への投与は幼児以 上に危険です。にもかかわらず,どのようなデータに基づいたかも明らかにされないままに,使用するよう勧告されているのです。
また,あまり使われてこなかった妊婦に対しても,催奇性を示す動物実験でのデータがあるにもかかわらず,使用が勧告されています。
このように,世界の状況もとても悪くなっていますが,それどころでないのが日本です。「新型インフルエンザを疑えばタミフル投与」という勧告が出てお り,歯止めのない使用拡大になっています。その結果,1−6月の日本でのタミフル使用量は前年同期の実に16倍(世界全体では約3倍)です。(読売新聞 7/23)

今回は,このタミフルの効果について,レビューの中で最も権威のあるコクランレビューの健康な成人に対する効果について見てみます。
レビューアーらは結論として,まず季節性のインフルエンザに対してはタミフルを使用すべきでないとしていました。しかし最も新しいレビューでは,この結 論に加えて,インフルエンザの合併症,特に下気道炎(肺炎・気管支炎)がタミフルによって減少するとしています。したがってパンデミックの際には使用すべ き,すなわち「備蓄」は意義があるという結論です。
しかし,この結論を出したデータは,Kaiserと5人の著者によるレビュー(Kaiser2003)をそのまま引用したものです。このレビューの著者 のうちKaiser以外は,4人がロッシュの社員,1人が有償のコンサルタントでした。Kaiserのレビューは10のランダム化比較試験(RCT)を含 み,うち2RCTは医学雑誌に掲載された論文です。これら2論文では偽薬と統計的有意差がありません。残りの8RCTは,たぶんロッシュの息のかかった ミーティングなどのまとめにすぎないのですが,偽薬に比して合併症を8分に1程度に減少させています。したがってタミフルの成人インフルエンザ患者での下 気道炎合併症の予防ができるという結論は,これらの信頼性に欠けるデータから得た結論となり,Kaiserのレビューを無批判的にコクランレビューに入れ るのはおかしいことです。

コクランのFeedbackにこのような意見を送りました。レビューアーからの反省の弁がでることを期待しているところです。子どもに対してはコクラン レビューも検討すべき内容ですので,熟読中です。権威のあるコクランレビューを使っての批判も今後ますます重要になるかと思っています。

2009.7 H