タミフル使用を推奨するWHOガイドラインの検証 — 大幅な適応拡大を正当化する科学的根拠は示されていない

世界保健機関(WHO)は本年8月20日にWHO Guidelines for Pharmacological Management of Pandemic (H1N1) 2009 Influenza and other Influenza Viruses (以下,WHOガイドラインと略)を発表しました。新型インフレンザ罹患時に,軽症から中等症で合併症のない患者では健康な者には使用しないとしている点 は評価できるところです。しかし,新生児を含む乳児,妊婦等のハイリスク者に対するタミフル投与の適応を拡大することを勧告しており,この勧告を受けて日 本感染症学会は,さらに拡大解釈して全ての人にタミフル,リレンザの処方を求めており,大きな問題点を持っています。

しかし,このWHOガイドラインを検討してみると勧告内容にはおおきな問題点がありました。具体的には,WHOガイドラインが根拠として Evidenceを示すとした文献は,いずれも季節性インフルエンザを対象とした質の高い比較試験で,健康成人対象の6文献,ハイリスク患者対象の6文 献,小児対象の2文献,高齢者対象の3文献でした。レビューで報告された結果は,タミフルが症状消失までの期間が1日弱,日常復帰までの時間が1日強と短 縮されますが,入院を要する合併症ではタミフル群と対照群では有意差を認めていません。また,死亡,重症化,入院に関してはデ−タが無いとしています。さ らに,乳児に対するタミフル使用に関しては,デ−タは未発表であると記載されており,根拠文献の提示も一切認められていません。

これらの事実に基づくならば,結論は「タミフル使用の利益は,有熱罹病期間や日常生活復帰の期間を約1日短縮するだけであり,死亡や合併症を防ぐ根拠は 認めず=重症化防止効果は認めず,入院を減少させる効果も認めない」でなければなりません。大幅にタミフル使用を推奨するWHOガイドラインの勧告内容は 再検討されるべきであり,同時にそれを根拠とした本邦の各学会の見解は再検討されるべきです。

2009.10 T

季節性インフルエンザを対象としたタミフルの試験結果(レビュー)
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タミフル群対対照群
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症状消失までの期間 1日弱(短縮)
日常復帰までの時間 1日強(短縮)
入院を要する合併症 有意差なし
死亡,重症化,入院 デ−タ無し
乳児に対する使用 デ−タ未発表
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