寄稿 子どもに広がる精神科薬(NEWS No.433 p08)

9月6日フジテレビの「とくダネ」で,子どもの精神科医療の問題について特集されました。民放でここまでつっこんだ内容の番組は初のことです。

番組中では大人に1日60錠もの薬を処方されている例や,不登校の中校生にリスペリドン(統合失調症治療薬)を含む何種類かの向精神薬が処方されている例,自閉症と診断された2歳の子どもにドバストン(L-ドーパ,パーキンソン病の治療薬)が処方されている例が紹介されました。

もちろん,大人であっても1日60錠というのは多すぎますし,普通の不登校に薬は不必要です。また2歳の子どもに自閉症と診断するのはかなり慎重になるべきなこと,さらにドパストンが自閉症に対して効果があるというエビデンスは存在しません。

5年,10年前に比べると,子どもに向精神薬を処方することに医者のためらいが少なくなってきているのを感じます。その流れは「子どものうつ」に対する抗うつ薬に始まり,次にADHD(注意欠陥多動性障害;俗に多動児といわれるもの)の治療薬であるコンサータやアトモキセチンなどの認可が影響しています。

子どもへの向精神薬の使用が広まりつつある現状が日本特有の現象かというとそうではなく,むしろアメリカなどの方が進んでいます。アメリカでは近年,就学前の子どもに対して双極性障害(躁うつ病)の診断がされ,抗精神病薬(もともとは統合失調症の薬)が処方されることがあります。日本ではまだ,子どもの双極性障害の存在には懐疑的な意見が多いのですが,子どもへの向精神薬使用の流れが,海外からも今後さらに押し寄せてくるは確かだと思います。大人の疾患概念が子どもにまで広がることや,新たな診断名・薬物治療の情報については,今後も注意深く吟味する必要があるでしょう。

フジテレビからは,自閉症やADHDなどの発達障害に対する就学前の子どもに対する薬物療法についてのコメントを求められました。

子どもへの向精神薬の使用の大前提として, 発達段階にある子どもの脳に薬がどのように影響するのかはっきりとしたデータもなく,安全性も確認されているわけではありません。 体のさまざまな部分が未発達で,特に子どもの脳は可塑性が高い,つまり刺激によって変化しやすいので,持続的に内服しなければならない薬や,脳に作用する薬を使うのは,慎重になるべきです。

子どもに薬の使用が増えるのは医療の問題のためばかりではありません。社会が子どもの行動を寛容に見ることができない,すなわち,学校で起こる「子どもの問題行動」が,医療の対象とみなされる,「医療化(メディカリゼーション)」もすすんでいます。医療の視点か過度に重視され,医療モデルで捉えることは,子どもの行動を大人の都合で「管理する」ことを正当化する恐れがあります。

子どもをどうコントロールするかよりも,周囲が子どもを理解し,家庭や保育園・学校にアプローチして育つ環境を過ごしやすいように整えることが,薬よりもまずは大切なのです。

横浜カメリアホスピタル 清水