大坂小児科学会 発表報告(NEWS No.447 p04-05)

12月1日の大坂小児科学会で医問研会員が4演題を発表しました。そのうち、伊集院氏らの健康相談会の発表は、すでに本ニュースで書いていますので、今月号には、残りの入江氏らと、林ら、高松らの発表抄録を掲載します。

低線量放射線障害の検討(その2)

胎児への影響:流産、低体重児出産、周産期死亡などが増加

はやし小児科1),入江医院2),医療問題研究会3),たかまつこどもクリニック4),大阪赤十字病院救急部5)
林敬次1),入江 紀夫2),伊集院真知子3),高松 勇4),山本英彦5),

【はじめに】日本小児科学会をはじめ、日本の医学会は福島原発事故の胎児に対する障害性を事実に基づいて検討していない。我々は医学文献調査により、内外の低線量被曝が胎児に及ぼす障害性を示すデータを報告してきた。今回は、癌・奇形以外の胎児への障害性について、より詳細に検討したので報告すると共に、福島県の被曝状況との関連も考察した。

【材料・方法】低線量被曝による胎児への障害に関連する検索語を前回報告より増やし、より幅広くPubmedなどを検索した。福島県の被曝調査データで胎児被曝と関連すると思われるセシウムの被曝調査なども検討した。

【結果】不妊は、母胎のX線被曝で1.35倍になるとの報告があった。流産は獣医で1.8倍との報告に加え、他の獣医の調査でも小動物を扱う獣医では1.3倍になるとの報告、シンチ検査では3.6倍になるとの報告があった。父親の被曝で100mSv当たり死産が1.24倍になるとの報告、チェルノブイリ事故以後の死産の増加のデータがあった。低体重出産では、歯科X線1.2mGyで低体重児が3.61倍になり、側湾X線検査で出生児体重が10mGy当たり37.6gm減少した報告があった。周産期死亡はチェルノブイリ事故後の調査で、旧ソ連・東欧・ドイツで増加したとの報告が6件続いていた。さらに、欧州数カ国では男女比の変化が観察されていた。

【考察】医学的なデータは、ICRPの「理論」に反して、100mSv 以下の低線量被曝で不妊、流産、死産、低体重児、周産期死亡の増加や、性比への影響などを示した。他方で、福島県でのホールボデーカウンター調査ではセシウム被曝は極低線量しか認められないとされている。しかし、その程度の「極低線量」の内部被曝によっても染色体異常の増加を示す報告があった。福島県での内・外部被曝のデータは胎児への障害をも示唆していると考えられた。

【結論】大阪小児科学会は、今回示す妊娠中の被曝の障害性を示すデータに注目し、福島原発事故で被曝した人々の被ばくデータと健康調査に関して、ICRP理論などに惑わされず、事実に基づいて独自に調査すべきである。また、学会員、特に女性会員の妊娠中の被曝を極力避けるように注意を喚起すべきである。

低線量放射線障害の検討(その1)

放射線による先天性形態異常

入江紀夫1) 高松勇2) 林敬次3)  伊集院真知子4) 山本英彦5)
入江診療所1) たかまつこどもクリニック2) はやし小児科3) 医療問題研究会4) 大阪赤十字病院救急部5)

【目的】チェルノブイリでみられる先天性形態異常に、多指症、四肢欠損など外表性の偏りが報告されている。劣化ウラン弾による内部被曝とされるイラクの症例にも共通性がみられる。これらに胎児への放射線の特異な作用が疑われるため文献的考察を試みた。

【方法】Annals of The New York Academy of Sciencesおよび、Pubmedをionizing radiation、congenital anomaly、Chernobyl、embryo、fetusで検索、動物実験も加えて文献を検討した。

【結果】形態異常の典型例として報告される症例(Yablokov 2009)は、身体の中心部となる頭部と体幹部に比して外表の四肢の欠損や変形が著しい。Lazjuk(1997)らの疫学調査でも、事故の前後において放射能の汚染を受けた地域で、多指症や四肢欠損、口唇口蓋裂の外表性形態異常に有意の上昇をみている。一方、Sato(1981)らは動物実験で妊娠マウスに粒子線を照射し、小肢症、短尾症、口蓋裂など多発外表奇形を発生させ、粒子放射線のBragg Peakという特異な線量分布が、妊娠中の胎仔に与える作用を報告している。

【考察】内部被曝による粒子線の作用は強力なものであるが、外部から線量評価をすることはできず、外表性の特異な形態異常の発生は、その危険性を示すものとして重要である。チェルノブイリでは15年経過する中で形態異常は上昇し続けており、日本においても発生の監視、予防のため内部被曝の回避、規制が必要である。

低線量放射線障害の検討(その3)

幅広い健康障害

たかまつこどもクリニック1) 医療問題研究会2) 入江診療所3)
はやし小児科4) 大阪赤十字病院救命救急センタ-5)
高松 勇1), 伊集院真知子2), 入江 紀夫3), 林敬次4),山本英彦5)

【目的】2011年3月11日の福島第一原発事故以降、福島県の子どもたちを中心に放射線被曝を受けたと考えられる子どもたちに、風邪をひきやすい、熱をよく出す、鼻血が多い、疲れやすい、保健室の利用が多い、眠れない等の様々な訴えが生じている。これらの症状を放射線被曝と無関係な「不定愁訴」として無視される現状には大きな疑問が存在する。そこで我々は、低レベルの放射線被曝によって幅広い健康障害(General heath detriment)が報告されているか否かを検討した。【対象】検討対象は、チェルノブイリ事故後の健康影響の報告である、1) ECRR(欧州放射線リスク委員会)2010年勧告 2) ECRR Chernobyl: 20 Years On,Health Effects of the Chernobyl Accident European Committee on Radiation Risk Documents of the ECRR 2006 No1.3) Chernobyl Consequences of the Catastrophe for People and the Environment, published by the New York Academy of Sciences(NYAS) in 2009 【結果】1)では、ベラルーシのブレスト地域(1990年)の3つの汚染地域と5つの参照地域における、子供10万人当たりの身体的疾患の指数をガン以外の病気で比較検討していた。伝染性、寄生性の病気、内分泌、代謝疾患、精神疾患、神経系疾患、慢性関節リウマチ、慢性咽頭炎、副鼻腔炎、消化器疾患、アトピー性皮膚炎、筋骨格系、結合組織疾患、先天的形態異常の増加を認めていた。また、すべての疾患を合わせた統計全体でも増加を認めていた。2)3)では、ベラルーシでの6-15歳の小児を「高汚染地域」と「低汚染地域」とで分けて、初年度、3年後に調査している。「めまい、衰弱、頭痛、胃の痛み、嘔吐、食思不振、疲れやすい」の訴えの頻度は、初年度、3年後共に高汚染地区の方が、低汚染地区よりも多くなっていた。全ての訴えを合わせた健康異常は、「高汚染地域」では初年度調査で72.2%、3年後で78.9%、「低汚染地域」では、初年度で45.7%、3年後で66.1%で、いずれも高汚染地域が統計的に有意に多くなっていると同時に、症状は3年後も減少することなく続いていた。【考察】チェルノブイリ事故後放射線汚染されたベラルーシの小児の健康上の訴えは、多岐にわたり、その頻度は放射線被曝が強い地域ほど高く、症状は持続していた。本邦においても、これらの症状を放射線被曝と無関係な「不定愁訴」として無視することなく、対象地域との比較を含めた疫学調査が早急に必要である。

(12月1日、発表には最後のセッションにもかかわらず、熱心な小児科医の方々を前に、4演題が報告されました。民医連の健診担当の方から熱心な質問もありました。)