くすりの コラム No.230 ナウゼリンによる心室性不整脈と突然死(NEWS No.447 p08)

Prescrire Internationalのナウゼリンの記事を臨床薬理権のMLを介して寺岡さんに教えていただいたので紹介します。ご紹介いただいた寺岡さんに感謝申し上げます。

ナウゼリン(一般名ドンペリドン)は逆流性食道炎(GERD)の対症療法に使われるが、効果は不確かである。実はナウゼリンは「隠れた神経遮断剤(抗精神病薬)」であり、GERDや嘔気嘔吐の対症療法に使われているが、致死的なTorsade de pointes(TdP:トルサード・ド・ポアント)を含む不整脈につながるQT延長を生じる。ときに致死的となる心室性不整脈のために、ナウゼリンの注射剤は1986年に市場から姿を消したが、経口剤は残っていた。
ナウゼリンによる心室性不整脈と突然死
臨床的には使用すべきでないー
<TdP:心室の頻拍発作で、心電図の波形が螺旋状になるもの。図を参照>

2011年には以下の2つの症例対照研究によって対照と比べてナウゼリン群は有意に突然死や重症心室性不整脈が多いことが示された。

1つはオランダの症例対照研究で、心臓以外の原因がなく、急性発症の1時間以内の突然の意識消失が先行するケースか、直前の24時間は安定していたのに突然死するケースか、である。突然死のオッズ比(OR)はナウゼリン群では3.7(95%信頼区間(95%CI):1.7-8.1)で、30mg/日以上になるとORは11.4(95%CI:2-65)に跳ね上がった。

もう1つはカナダの症例対照研究で、突然死や重症心室性不整脈がナウゼリンやプロトンポンプ阻害剤(PPI)その他の薬剤と関連するかどうかを調べた。突然死や重症心室性不整脈の相対危険度(RR)は、ナウゼリン群ではPPI群や無投薬群と比べて約1.5倍(PPI群ではOR=1.44 95%CI:1.1-1.9。無投薬群ではOR=1.6 95%CI:1.3-2)高かった。

ナウゼリンはドパミン拮抗剤で、消化管運動に影響することで作用する。ドパミン拮抗剤という点では、神経遮断剤抗精神病薬)と同様なので、「隠れた神経遮断剤(抗精神病薬)」というわけだが、同じ制吐剤のプリンペラン(一般名;メトクロプラミド)より錐体外路症状(パーキンソン症候群など)が少ないという点でナウゼリンが選ばれるものと考えられる。しかし制吐剤としての効果はプリンペランに劣る。しかも、重大な害作用として、重症心室性不整脈や突然死のリスクが大幅に高まるのでは、使いようがない。ちなみに、ナウゼリンの効能書きには、「使用上の注意」に「めまい、ふらつき」が、「重大な副作用」に「意識障害、痙攣」が挙げられているが、「循環器」系害作用としては「その他の副作用」で「心悸亢進」しか挙げられていない。本来なら「警告」やせめて「重大な副作用」に「心室性不整脈、突然死」を挙げるべきである。

いわくら病院 梅田