大阪小児科学会発表報告(NEWS No.448 p04)

医問研メンバーは大阪小児科学会(12月1日開催)で「低線量放射線障害の検討」と題する4演題を口演しました。私は、医問研が本年4月と9月に取り組んだ「福島避難者こども健康相談会」の報告を担当しました。

東京電力(株)福島第一原発炉心溶融(メルトダウン)により福島県浜通り・中通り地域は放射線管理区域以上の放射能汚染を蒙っています。この大惨事に直面した福島では、被ばくによる健康不安を医療機関で相談し難い状況や、福島県による県民健康管理調査に対する不信もあり、「子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク」と市民放射能測定所(CRMS:Citizens Radiation Measuring Station)の要請に応えて、「子どもたちを放射能から守る全国小児科医ネットワーク」(代表:山田真 医師)による「こども健康相談会」が2011年6月より続けられており、医問研からも協力しています。

福島県では、震災以降の県外避難者は約6万人(本年2月現在)、昨年3月1日より本年9月30日までの県外への転出は87756人との報告があり、今なお毎月800~500人の転出超過が続いています。また本年5月の福島市による調査では、中学生以下の子どもを持つ家庭の50.8%が「今でも避難したい」と答えています。繰り返された「ただちに健康への影響はない」との言葉にもかかわらず、放射線被ばくを避けるために全国各地に避難した家族が多数存在しています。

全国各地に避難した福島の子どもたちへの健康相談の依頼を受けて、東京に続いて大阪市内で開催した「こども健康相談会」には、福島県内(5市、1町)から関西地方(大阪府・兵庫県・京都府などの16市)へ避難した25家族51名の子どもたち(のべ29家族57名)の参加があり、その相談内容は「医問研ニュース」で報告しましたように、体調不良・健康不安や避難生活の関することなど多岐に亘っていました。また相談者からの医療機関受診の要望は高く、甲状腺検査を強く希望され、6家族13名を紹介しました。ちなみに相談会までに甲状腺検査を済ませていた方は6家族10名でした。そのほか、胸痛についての検査、低身長の経過相談、胎児被ばくで有症状時受診の窓口確認などがありました。

健康相談から私達が学んだ「避難者の現状」として、1) 低線量被ばくの危険性から子どもを守るために故郷を離れた避難者の多くは母子避難で、健康不安とともに、家庭と社会生活の上で、大きな犠牲を背負っての避難生活であること、2) 多くの心配、不安、悩みを抱え、「避難して良かったのか?」とも迷いながら、今まで医療機関にも相談できずに生活して来られていたこと、3) 「健康相談会」ではじめて相談することが可能となったことなどが挙げられます。

次に、本年6月に成立した「子ども・被災者生活支援法」(正式名:東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律)について言及しました。その第2条第2項において、被災者が自らの意思で居住、移動についての選択ができるという「避難の権利」が認められ、また第13条第3項では、胎児を含む子どもは特に放射線による影響を受けやすいとの認識のもと、子どもの健康被害を未然に防止することを考え、「明らかに放射線災害、原発災害と無関係であるといえない限りは、救済してしかるべき」として、

その疾病が「放射線による被曝に起因しない」のであれば、国側がその立証責任を負う、との内容で、理念法とは言え画期的なものであり、避難者支援、健康被害の未然防止と健康管理に万全を期することは、もはや国の責務となっています。「私たち小児科学会も積極的に協力することは当然のことと考えます」と訴えました。

「今後の課題」として、1) 多様な子どもの症状が存在し、多くの親の健康不安の言葉を謙虚に受け止め、寄り添うことが求められる、2) 避難者が健康や生活に対する不安を表出できる場が必要であり、「低線量被ばくの危険性」を踏まえた医療姿勢が必要である、3) 避難者が安心して医療が受けられるよう、無料の検診体制の確立が必要である、とまとめ、第3回健康相談会(2013年4月28日ドーンセンター)への協力をお願いしました。

フロアーから、被災者の医療費負担、避難した人口の年齢分布、相談会の広報方法、甲状腺超音波検査結果などについての質問があり、土曜日夕方5時ごろの最後の発表でしたが、学会員40名ほどの清聴を得ました。この問題に向き合おうとする小児科医の力を束ねて、日本小児科学会の低線量放射線障害に対する「考え方」(がん以外の健康障害を認めず、150mSv以下では、がんの発生増加も確認されずと報告している;2011年5月19日)の改訂を迫りたいとの思いを強くしました。

小児科医 伊集院