いちどくをこの本『原発問題の争点―内部被爆・地震・東電』(NEWS No.448 p07)

大和田幸嗣、橋本真佐男、山田耕作、渡辺悦司著
緑風出版 2800円 発行2012/09/20

この本は、「原発との共存はあり得ない!」という明確な立脚点から書かれています。内容の要約は、表紙に書かれているので、その文章を紹介します。「本書は、福島原発事故による低線量内部被爆の脅威、原発の耐震設計の非科学性と耐震設計が不可能であることを自然科学の観点から考察し、また科学者の責任を問い、さらには東電の懲罰的国有化が必要であること、子どもたちの未来のために原発によるエネルギー生産を永久に放棄すべきことを提言する。」この文で読んでみたくなるかと思います。

なお、この本のお二人の著者が医問研編集の「低線量・内部被曝の危険性」を参考文献にあげてくれています。

さて内容ですが、第一章の、内部被爆の危険性―チェルノブイリの教訓からフクシマを考える-では、フクシマの原発事故が世界的な放射能汚染を引き起こしていることの紹介から始まり、チェルノブイリ原発事故による内部被爆の医学・生物学的研究や、新食品基準値批判、セシウム汚染の障害性をバンダジェフスキーの研究などで解説しています。また、低線量内部被爆を考える上で重要な、ペトカウ効果とバイスタンダー効果をかなり詳しく紹介しています。

次に、チェルノブイリ事故から導かれる、福島原発事故による内部被爆の進行と、そこから予想される障害性を発行ぎりぎりまでのデータで紹介しています。日本の「専門家」達が、福島原発事故の障害性を、広島・長崎の原爆の調査からしか導こうとしないことと決定的に違うところです。例えば、子ども達の「不定愁訴」を被曝との関連でとらえ、放射能の障害性を動物や植物まで幅広く紹介、牛の胎児が親の1.3倍のセシウムを蓄積していることも記載されています。

第二章の、地震と原発は、物理がとても弱い私にとって相当難解でした。しかし、余震が本震より強力、遠くの余震が近くの本震より強力、遠くの地震の方が強力、などの具体例が示され、地震とは本当にわからないものなのだということが理解できました。

また、近年日本で観察された、地振動とそれに基づく予測にNoda法というものがあるが、これもまた信頼できないことが実証されています。その結論は、「私たちは地震に対処する有効で安全な設計基準と評価方法を持たないのである。」

第三章、原発に対する科学者の責任、の章では、主に「低線量被曝ワーキンググループ報告批判」がなされている。批判は、極めて論理的に行われ、ICRP批判が様々な理論的観点から行われている。例えば、前述のペトカウ効果やバイスタンダー効果、はもとより、人間を均質な物体に例え、内部被曝を均等な被曝と想定する等の過ちの指摘が綿密になされています。

字数制限のため、第4章、マルクス主義経済学からの原発批判、では、著者が明確に「除染政策」に断じて反対であることを論証していることの紹介にとどめます。

総じて、科学者の文章だけに、論理性を重要視しているため、難解なところもありますが、是非読んで欲しい本です。

はやし小児科 林