くすりのコラム No.233 新規血圧降下剤ARB「アジルバ」~製薬企業のジェネリック対策(NEWS No.450 p08)

2012年6月に特許の切れるブロプレスを抱える武田が日本で第7番目となるARBの発売を2012年5月に開始しました。発売されたアジルサルタンはブロプレスの構造を少し変えたものです。ブロプレスより有意に降圧効果が高いと臨床試験で確認されました。しかしその投与量はブロプレスより多くなっています。ほぼ同じ構造のアジルバ、ブロプレス、EDARBI(海外で承認)の特徴を比較し武田薬品工業のGE対策について紹介します。

武田の3つのARBアジルサルタン(アジルバ)の臨床試験ではカンデサルタン・シレキセチル(ブロプレス)と比較して有意に高い降圧作用があり、安全性、忍容性はそれと同等であったとされています。

そのプロドラッグ体、アジルサルタン・メドキシミル(EDARBI)は海外で承認されていますがアジルサルタンは日本での承認が初めてとなります。

商品名/一般名 分子量 推奨用量:物質量 活性体/特徴
EDARBIアジルサルタン・メドキシミル 606.62 80mg:131.9μmol アジルサルタン プロドラッグ
アジルバ アジルサルタン 456.45 20mg:43.8μmol アジルサルタン活性体
ブロプレス カンデサルタン シレキセチル 610.66 8mg:13.1μmol カンデサルタン活性体

プロドラッグ化とは例えば消化管からの吸収が悪いカンデサルタンをカンデサルタン・シレキセチルに構造変換することで吸収改善し、吸収後に活性体のカンデサルタンに戻って作用発揮するというものです。「プロドラッグ化により少ない量で効果を発揮させることができるようになった」というのがブロプレスの宣伝文句でした。そのため他のARBよりブロプレスは投与量が少ないのです。

アジルサルタンはカンデサルタンより降圧効果が高いのに物質量で言えばアジルバはブロプレスの3倍、EDARBIでは10倍も入っているのです。2012年12月2日の薬事食品衛生審議会議事録でも、EDARBIを申請せずにアジルバを申請している意図を委員が尋ねているのですが、ちゃんとした回答はされませんでした。単純に10倍の物質量を含むものを売っても儲けが少ないことが理由でしょう。日本の高血圧GLでは降圧効果が低ければ他剤と併用できるとあるので降圧効果は低くても構わないのです。

価格設定
「ブロプレスより安くて降圧効果の高い薬がでました。」と言われれば飛びつくでしょう。実は安いと言ってもほんの少し、ブロプレスなら特許が切れているのでまもなくGEが出てくることはMR情報が頼りの処方医では教えてくれないでしょう。臨床試験ではオルメサルタン(オルメテック)と比較し降圧効果が高いということで有用性加算5%がつけられています。ブロプレスより少し安くて一番高い理想的な値段が付けることができました。(ARB価格表参照)

GEメーカーへの圧力
ブロプレスの2011年国内医療用医薬品売上は7期連続第1位、年間約1120億円です。このような大型医薬品のGEは当然特許がきれる前から待ち構えたよう作られています。しかし2012年6月に特許が切れたのにいまだにGEがありません。
おそらく、後発薬訴訟の影響があると考えられます。

武田薬品工業が、同社のアクトス後発薬特許侵害訴訟、武田薬品が全面敗訴、大阪地裁(日刊薬業)
2型糖尿病治療剤「アクトス」(ピオグリタゾン塩酸塩)の後発医薬品を2011年6月に薬価収載し発売した、沢井製薬など8社の後発医薬品企業を特許侵害で提訴していた訴訟で、大阪地裁は9月27日、特許侵害を認めず、武田薬品の請求を棄却する判決を下した。これは他の合剤の訴訟ですがGE販売を遅らせることは訴訟にかかる費用を差し引いても大きな利益があることは想像できます。

ニューロタン ブロプレス ディオバン オルメテック ミカルディス アバプロイルベタン アジルバ
25mg・75.5 4mg・72.3 40mg・61.4 10mg・68.2 20mg・69.3 50mg・68.5
50mg・143.4 8mg・140.4 80mg・114.8 20mg・130.4 40mg・131 100mg・130.5 20mg・136.9

アジルバの長期投与制限が切れる5月に向けて販売攻勢が激しくなるでしょうし
GEはおそらくブロプレスからアジルバへ処方が十分切り替わった後に販売開始すると思われます。アジルバの降圧効果はブロプレスより高いとメーカは主張し、アジルバ20mgの物質量はブロプレス8mgの3倍含有しています。服用による有害な作用がないか見守りたいと思います。
(薬剤師 小林)