ブータンの医療(体験報告その2)(NEWS No.451 p03)

By: LAI Ryanne

皆さま、こんにちは!今回はブータンの医療システムと伝統医療について、私加畑が見聞きした事をご紹介します。

<医療は無料、伝統医療は近代医療と同等>

ブータンでは2008年に憲法が公布されましたが、その9条には国の健康政策についてこのように規定されています:『政府はすべての国民に対して、近代医療・伝統医療の両方において、無料の医療サービスを提供する』。この条文のポイントは2つあり、1つ目はすべての医療サービスは無料だということです。教育も無料で提供されます(私立学校は例外です)。2つ目は、近代(西洋)医療と伝統医療が対等に並列に扱われているということです。ブータン保健省の政策立案担当の方は「ブータンの伝統医療は、代替医療ではありません」と強調されていました。「代替」という位置付けではなく、西洋医療と対等に、お互いを補完しあう関係だということです。伝統医療も近代医療と同じく、すべて国の管理下に置かれており、目下のところ民間の医療サービスは存在しません。

<伝統医療とは>

ブータンの伝統医療は、チベット医学とインドのアーユルヴェーダ医学の両方からの影響を取り入れ、ブータンの風土に根ざして発展してきました。村の診療所の棚には、多くの種類の薬草が瓶に入って並べられていました。それらを煎じて飲むそうです。また、村のおばあさんが左膝が痛むと訴えており、見せてもらったところ、左膝に小さな火傷のような跡がいくつかあります。尋ねると「金の針治療を受けた」という答えでした。これも伝統医療のひとつの手法だそうです。膝痛・背部痛、皮膚病などに対し、アルコールランプで熱した金の針(直径6ミリくらい)の先端を触れさせて治療します(刺すのではありません)。診療所の伝統医療師の方は「高齢者は伝統医療を好むが、若い世代は近代医療に頼る。若い世代にも伝統医療の効果と価値を分かってもらい、後継者を育てていくことが課題だ」とおっしゃっていました。

<医療制度の概要>

ブータンの医療制度はピラミッド構造になっています。つまり、1次医療を担当するのがOut-Reach Clinic(ORC)とBasic Healthcare Unit Grade2(BHU2)、2次医療を担当するのがBHU Grade1・各県にある病院、3次医療を担当するのが地方の中核病院とティンプー(首都)にある総合病院です。特徴的なのは、ORCとBHU2です。ORCは村ごとにあり、村人のボランティア(Village Health Workerと呼ばれる)が運営しています。彼らは、同じ村に住む人たちに予防に関する知識を広め、病気にかかった人がいれば訪ねて行き状態をチェックします。それを定期的にやってくるHealth Assistant(HA)に報告します。HAはBHU2に常駐する医療従事者です。HAは大学で3年間の教育を受けた後、全国各地のBHUに派遣され、地域の健康増進や応急処置をおこない、ペニシリンなど簡単な処方をおこなうこともできます。HAが治療できない患者は、上のレベルの病院に送られます。先月の報告で、ブータンは非常に起伏の激しい、山と谷を繰り返す地形であると書きましたが、ORCやBHU2は難しい地形に散在する人びとに医療を行き届かせるための仕組みと言えます(次号に続く)。

(京大医学部学生 加畑)