ブータンの医療(体験報告その3)(NEWS No.452 p02)

こんにちは!4月からついに医学部最終学年になりました、加畑です。今回はブータン報告の最終回ということで、「ブータンの医療上の課題」をテーマに書きたいと思います。

ブータンの平均寿命は66.9歳(2010)で、WHO平均寿命ランキング(2012年版)では加盟国193カ国中138位でした。新生児死亡率は出生1000対26.8人(2010)で、193カ国中43番目に高い数字でした。ちなみに日本の平均寿命82.9歳(2010)は言うまでもなく1位、新生児死亡率は1.2人/1000人(2010)で188位でした。厚生省の人口動態統計データを見ると、ブータンの新生児死亡率は1950年代前半の日本と同じくらいと言えます。このような現状においてブータンの抱える問題は、まず第一に医師数の絶対的不足、そしてシステムの未確立と設備の不足です。

医師不足に関して、2009年時点では全国の医師数は176名でした。総人口が約72万人なので、人口1000人あたり約0.24人の医師が対応するという計算になります。日本は2.2人(2010)、欧米諸国では3~4人ですので、いかに少ないかが分かります。そして、約180名の医師の多くが一般診療医(General Practitioner)で、専門医はごく一部です。滞在中、ブータンで活躍する日本人小児科医、西澤和子先生からお話をうかがうことができました。そのお話によると、産婦人科医は全国に11名だけで、そのうち6名が首都にあるティンプー総合病院に勤務しているそうです。小児科医は全国に7名(西澤先生を含む)で、うち4名がティンプー総合病院に勤務しています。NICUに対応できる医師は、全国に西澤先生おひとりだけです。もともと少ない人材が首都に集中しているわけで、都市と地方の格差は深刻です。

このような状況を受けて、ブータンでは医科大学の設立に向けて準備が進んでいます。ブータンには今まで西洋医学の医師を養成する教育機関がありませんでした。毎年20名ほどの学生をインドやスリランカの医学校に留学させ、彼らが医師になって戻ってくるのを待っていたわけです。現在、看護学科・健康科学科・伝統医療院の3つは既に機能しているので、ここに新設の医学科を合わせて医科大学を設立します。今年7月から始動の予定ですが、まずは既に国内で働いている一般診療医に対して専門教育をおこなうことから始め、医学生教育の開始にはもう2~3年準備が要りそうです。しかし西澤先生は「多忙を極めるブータンの医師たちに、さらに教育という負担がかかることになるので心配です」とおっしゃっていて、私も同感しました…。

以上3回にわたってブータンの医療についてご報告しました。拙い文章でしたが、読んでくださってありがとうございました!

(京大医学部学生 加畑)

写真は加畑さんの医問研へのお土産、壁掛けの一部です。