学会報告(NEWS No.452 p05-07)

(その1)日本小児科学会学術集会

福島関連の演題会場を中心に、津田岡山大学教授論文を中心としたパンフレットを約700部配布

4月19日20日21日に開催されてた日本小児科学会では、福島の被曝関係の講演会などがいくつか開かれました。

私たちは、多くの学会会場で、医問研の意見を表明しました。まず、福島原発事故関連の演題会場・学会総会会場の前などで、津田岡山大学教授論文を中心としたパンフレットを700部ほど配布しました。関心は高いようで以前のタミフルのパンフレットよりさらに受け取りは好意的でした。これは相当な影響を与えていると考えています。

日本小児科学会総会で「150mSv閾値」論について検討する、との学会長の回答あり


福島関連の、一つの講演会場では当初福島県のアドバイザーであった山下俊一長崎大学教授が講演するはずでしたが、突然に別の講師に変更されました。最も重要な甲状腺がんの発生をどう見るかについては全く発言せず、100mSv問題をはじめ、文献の勝手な引用など本質的にはウソばっかりでしたが、司会が質問を全く受け入れず閉会しようとしたことに対し、激しく抗議しました。もう一つの講演でも、甲状腺がん問題が避けて通られたことに対し、質問でそのような態度は間違っていることを明らかにしました。

総会では、ホームページでの「田代教授ご指導」の「150mSv問題」に絞り、五十嵐会長責任の学術会議の報告では文献が載せているのに、田代教授の方は文献も載せていないことを指摘しましたところ、会長は「150mSv」 の方は検討することを約束しました。これは、総会での回答ですから、正式なものです。その後、ある人を通じ、質問した林宛に、この件について、日本小児科学会は「田代教授を中心とする委員会で今後の対応について検討し、その結果をお知らせいたします」、との連絡が入りました。今回の行動の一つの成果だと思われます。

-日本小児科学会自由集会-
「4/20こどもたちを放射線障害から守る全国小児科医の集い」大成功


20日の夕方よりの「4/20こどもたちを放射線障害から守る全国小児科医の集い」に、30数名が参加されました。小児科学会員や会員以外の方々で、東京、九州、広島、北陸などからも参加者がありました。

前号でご紹介した内容で基調報告がなされた後、前述のパンフレットの内容で、岡山大学津田教授が100mSv 以下は障害がないかのように語る日本の専門家たちの間違いを極めて明瞭に講演されました。また、福島での小児甲状腺がんの発見は、異常な高頻度であることを、疫学的に詳細に講演されました。

討論では、主には1)今見つかっている甲状腺がんが、潜在しているものがたまたま超音波診断によって発見されたものではないかとの質問に、津田教授から「発生率」×平均有病期間(顕在化し治療で治癒するか死亡するまでの期間)=「有病割合」の詳しい説明がありました。医問研の山本氏からチェルノブイリでの超音波スクリーニングにも関わらず0-9歳で事故後発見が大きく増加し、93年をピークに、10年後にはほぼ事故前レベルなっていることが示されました。もし、山下氏の言うように、今回の検診は10-20年後のガンを早く見つけただけなら、被曝した子どもでは発見が増加し、被曝していない子どもでは見つからないようなことは起こりえない、と解説しました。

2)ご自分のお子さんが、福島では不定愁訴が多かったが広島に転居してなくなった、そのような症状にも注目すべき、との意見も出ました。指摘された様なさまざまな症状を、被ばくによる害として明示するための調査の必要性が指摘されたと受け止めました。その他、活発な議論が時間を超えてされました。

集会後も半数ほどのメンバーでお酒を交えて交流を深めました。
集会や交流会を準備していただいた、広島の松山先生に大変感謝いたします。

(その2)近畿小児科学会


3月24日に大阪国際会議場で開催された近畿小児科学会に、医問研メンバーから医療被曝に焦点を当てた以下の発表をしました。

以下、それらの抄録を紹介します。今回は、編集の都合で―その3-のスライドの一部だけを掲載しました。

低線量放射線被曝の危険性―その1-低線量医療被曝の危険性を考える
:発表、高松勇


福島第一原発事故以来、放射線被曝リスクが大きな問題となっているが、医療の現場での日々の被曝も重要な課題である。わが国の医療被曝は世界で突出して高く、診断用放射線による発がんリスクは世界一と言われている。Berringtonらは日本のがんの3.2%は診断被曝が原因で、発がんは年間7587名に及び、がん寄与度は英国の5倍であると推計している(Lancet 2004; 363)。わが国の医療被曝線量が多い原因はCT検査時の被曝であり、CT装置の設置台数は1993年の約8000台(世界の1/3以上)から2003年には約14000台と倍増しており、国民総被曝線量の増加が懸念される。さらに小児のCT被曝リスクは高く、乳児の1回の腹部CTで発がん死亡は1万人当たり23人と推定されている(AJR 2001;176)。国民被曝線量を下げるためには、CT検査適応の厳密化、ならびに被曝低減対策が重要である。

低線量放射線被曝の危険性-その2--診療放射線でのエビデンス
:発表、入江紀夫


【はじめに】100ミリシーベルト以下の被曝線量では、発がんリスクの明らかな増加を証明することは難しい、とする「ワーキンググループ」報告書の参考文献にない診療放射線領域での、低線量被ばくの疫学的エビデンスを検討した。【結果】妊娠中の被曝による発がんリスクの上昇は、50年代よりA.Stewartにより指摘され、75年にはJ.Bithellらにより骨腫瘍を除くすべての小児がんで有意の上昇をみている。97年のDoll and Wakefordのレビューでは10mSvで有意にリスクが上昇。CMAJ(2011)は、成人でも10mSvごとに3%の発がんリスクを明らかにしている。これらの診療放射線の豊富な疫学データについてまとめる予定である。【考察・結論】これらはICRP、BEIRなどが認める国際常識であり、10mSvでのリスクは明らかで100mSvに根拠はない。日常の医療被曝も低減の努力が必要である。

低線量放射線障害の検討―その3-胎児への影響(発がん・催奇性以外)
:発表、林敬次


【はじめに】日児は、ICRPでさえ認める150mSv 以下の被曝の障害性を認めていない。その検証のため、医療被曝による胎児への発がんと奇形以外の影響を医学論文レビューによって検討したので報告する。【結果】医療被曝は、患者の被曝と医療従事者の被曝に分けられる。前者の報告には、歯科レントゲンによる低体重児出産と、思春期での側湾症の診断によるレントゲン被曝による出生への障害などが報告されていた。また、医療従事者の被曝に関しては、獣医や検査技師の妊娠出産への障害が報告されていた。いずれも、100mSvよりもはるかに低い被曝でも障害が生じていた。

【考察・結論】患者や医療従事者は、被曝量も障害性も特定しやすい。その研究で100mSv以下でも胎児への障害性が認められた。日児は、150mSv以下は障害性がないとすることを撤回し、患者や小児科医を含む医療従事者の被曝を可能な限り軽減する努力をすべきである。



(今回はこの報告だけスライドをつけました。)