「日本小児科学会自由集会」参加報告(NEWS No.453 p02)

広島での日本小児科学会期間中の4月20日、「子どもたちを放射線障害から守る全国小児科医の集い」が医問研の呼びかけで、広島在住の小児科医の協力も得て開催されました。東京からは山田真医師や国立成育医療研究センター副院長の甲状腺疾患専門医、「実家が福島です」と告げられた大阪からの医師、北陸、九州など全国各地の小児科医、関東から広島に避難された双子連れの医師夫妻、薬剤師や僧侶など約30名の参加がありました。
はじめに、実行委員会代表の高松勇さんから、

  1. 福島で甲状腺がんの多発が明らかになった今、全国の小児科医から福島の子どもたちの避難のための緊急支援が必要であること、
  2. 低線量被曝の危険性を否定する日本小児科学会の「150mSv見解」の撤回を求めなくてはならないこと、
  3. 福島避難者こども健康相談会の取り組み報告、「こども・避難者生活支援法」の実体化の必要性

等の基調報告がなされました。

続いて、津田敏秀氏(岡山大学大学院・環境生命科学研究科教授)の講演です。二つの主題での講演をして下さいました。
まず「100mSv以下の放射線被曝の健康影響について」の講演は、疫学の基本的知識に乏しい私ですが、昨秋の内容より理解しやすく豊富化されているように感じました。福島原発事故による放射線被曝について、日本の学術諸団体の声明そして政府機関の「低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ報告書」にあるように「100mSv以下では放射線によるがんの多発は証明されない→起きない」とする考え方が、国際的に議論されている内容[100mSv以下の低線量被曝でもがんの増加は生じるが、その低線量放射線の人体への影響度合いをどのように算定するか?(即ち、線量・線量率効果係数;DDREFの値の決め方についての論争)]からかけ離れており、無茶とも言える考えであること、また日本の労働安全衛生法令の放射線防護の考え方(電離放射線障害防止規則)にも影響が及びかねない危険なことを学びました。
次は「福島県での甲状腺がん検診の結果に関する考察」と題する講演でした。本年2月に発表された甲状腺がん症例数は9例もしくは10例でしたが、手術で確認された3例でもってしても「多発」であることの証明が始めにありました。私にとっては、難しく思われる内容でしたが、「スクリーニング効果」「潜在がん説」を論破できる「平均有病期間」という概念を初めて知ることとなりました。そして「証明された多発」が偶然によるのでなく「統計学的に有意な多発」であることを「ポアソン分布」という確率分布を用いて検証することを教えて頂きました。津田氏による「ポアソン分布の手法を全く用いない福島県民調査の解析に対する批判」と共に「多発の確認を踏まえて、次の段階に備える十分な理由が加わったと考えるべき」との言葉は、根拠に基づいた力あるものでした。
続いて医問研の山本英彦さんは、「福島での甲状腺がん多発」を認めない国や福島県の

  1. チェルノブイリに比べ福島の被曝量は1/10程度で、ヨード欠乏地域でもない、
  2. チェルノブイリでは小児甲状腺がんの発症は4年後、
  3. だから今回の結果はスクリーニング効果で「潜在性がん」を発見したに過ぎない・・・・

このような言い分に対する反論をデータに基づいて展開されて、「緊急ながん回避の方策が必要」と主張されました。

自由集会に先立ち開催されていた日本小児科学会総会の場で、執行部に対して「150mSv見解」撤回の要請発言をされた林敬次さんは、「150mSv見解」の根拠とされた文献調査をしたが、この見解を正当化する内容はなかったことを文献提示しながら報告されました。
3時間近くに及ぶ集会でしたが、多くの方が最後まで参加され、福島や放射線障害に関する情報提供や自分の思いなどの発言が続きました。小児の被爆問題について全く触れようとしていなかった学会総会の現状は厚くて重い壁があることを再確認するものでしたが、この集会での学びと共に多くの方々と力を合わせて何としても「壁」を動かす努力と勇気を持ち続けねばと思いながら、広島から帰阪しました。(小児科医 伊集院)

<編集より>
総会で会長が、150mSvについて再検討するよう約束し、その後学会ホームページの目次から、「150mSv」問題の「日本小児科学会の考え方」ばかりか、日本学術会議の低線量被曝の有害性を曖昧にした「提言」も消去されています。今回の行動の大きな成果です。詳しくは今後お知らせします。