医療トピックス 鳥インフルエンザ事件は、タミフル備蓄とワクチン開発、インフルエンザ「特措法」正当化のため。(NEWS No.453 p03)


大きく報道され続けています。5月17日付WHOの発表では、感染患者は131人、うち36人が死亡とされています。今回の鳥インフルエンザはこれまで「怖い怖い!」とされてきたH5N1亜型ではなく、H5N9だったことは目新しいことです。しかし、人から人への感染はなく、鳥から人への感染率も極めて低いこともこれまでと同じです。

これまで、世界の鳥インフルエンザの人への感染のほとんどは「発展途上国」で起こっており、死亡者は「先進国」では1人もいません。この10年間で最も多い死者を出しているのはインドネシアの160人です。他方で、「先進国」の中で、イギリスでH7N2の患者4人、カナダH7N3の患者2名、日本で症状のないH5N2の感染が15人確認されていますが、いずれも1人の死者も出ていません。

さて、中国を始め「発展途上国」でのH5N1による患者・死亡者数は2003年から2013年までの10年間で、それぞれ628人と374人です。これに今回の中国の症例を含めますと患者数759人と死亡者410人になります。年間76人と41人です。これは、これらの発展途上国の死因としては極めて少ないもので、今回の中国の鳥インフルエンザでも、中国の人口は13億人を超えていますから、患者は千万人に1人、死亡は3600万に1人です。発展途上国ではほとんど問題にならない死亡率と思われます。例えば、肺炎の死亡数は年間100万を超え、下痢で76万人が死亡しています。

また、先進国では鳥インフルエンザの感染者が相当いるのに、死亡数ゼロであることは、鳥インフルエンザによる死亡者の多くは、発展途上国にまん延している肺炎などにたまたま合併した可能性が高いといえます。

その証拠の一つが、今回の中国での死亡者3人の治療方法に現れています。1人は87歳で慢性閉塞性肺疾患、2人はB型肝炎患者で、3人とも発症して入院までは5-7日で、強力な抗生物質が使われ、ARDSとされていますが肺炎の可能性もあります。

今回の中国の鳥インフルエンザ問題は、鳥を飼って生活している人たちにとっては深刻な経済問題だったのですが、人間の健康問題としては極めて小さな問題です。にもかかわらず、人間への感染をこれだけ大騒ぎをするのは、この問題を利用して、儲けたり政治的に利用したりするためであると考えざるを得ません。

その目的の第一が、タミフルなど抗インフルエンザ薬の2013年に一部の使用期限が切れる備蓄の問題です。コクランレビューによって、肺炎などの重症化を防ぐとのデータがないことが確認されているいま、備蓄を正当化するものがなんとしても欲しかった製薬巨大企業にとって、中国の鳥インフルエンザ問題は、渡りに船の事件だったわけです。

ところで、今回のH5N9の発生は、これまでH5N1を標的として開発されてきたワクチンが全く役に立たないことを、再度証明したものです。危険な人体実験をしてきた日本のインフルエンザワクチンはH5N1のみであり、H1N1豚インフルエンザに対しても、今回のH5N9にも全くの的外れでした。このようなワクチンに巨額の予算と被害を与えて人体実験をしてきた人たちの責任と償いをどうなるのでしょうか。

ところが、急遽開かれた「有識者会議」では、この問題を棚上げにして、ワクチンを「集団接種」するなどを決めたとされています。これは、鳥インフルエンザを利用して「新型インフルエンザ特措法」の発動を先導する動きとも考えられます。市民の民主的権利を剥奪する「特措法」にさらに注意してゆかなければなりません。(はやし小児科 林)