学会報告(NEWS No.453 p04)

今月より、4月の日本小児科学会に発表した研究をシリーズで紹介します。ポスター発表ですので、スライド原稿は細かい字ですので、ニュースでは雰囲気だけの紹介になる場合もありますのでご了承下さい。詳しい内容を必要な方はご連絡ください。

【シリーズ1】

低線量放射線障害の検討-その3-幅広い健康障害

<所属> 高松 勇,たかまつこどもクリニック、伊集院真知子,医療問題研究会、入江 紀夫,入江医院、林敬次,はやし小児科、山本英彦 大阪赤十字病院救急部

2011年3月11日の福島第一原発事故以降、福島県の子どもたちを中心に放射線被曝を受けたと考えられる子どもたちに、風邪をひきやすい、熱をよく出す、鼻血が多い、疲れやすい、保健室の利用が多い、リンパ節が腫れる、眠れない等の様々な訴えが生じている。これらの症状を放射線被曝と無関係な「不定愁訴」として無視される現状には大きな疑問が存在する。そこで我々は、低レベルの放射線被曝によって幅広い健康障害(General heath detriment)が報告されているか否かを検討した。検討対象は、チェルノブイリ事故後の健康影響の報告であるが、1) ECRR 2010 Recommendations of the European Committee on Radiation Risk. 2) ECRR Chernobyl: 20 Years On,Health Effects of the Chernobyl Accident European Committee on Radiation Risk Documents of the ECRR 2006 No1.3) Chernobyl Consequences of the Catastrophe for People and the Environment,published by the New York Academy of Sciences(NYAS) in 2009

1)ECRR(欧州放射線リスク委員会)2010年勧告では、ベラルーシのブレスト地域(1990年)の3つの汚染地域と5つの参照地域における、子供10万人当たりの身体的疾患の指数をガン以外の病気で比較検討していた。伝染性、寄生性の病気、内分泌、代謝疾患、精神疾患、神経系疾患、慢性関節リウマチ、慢性咽頭炎、副鼻腔炎、消化器疾患、アトピー性皮膚炎、筋骨格系、結合組織疾患、先天的形態異常の増加を認めていた。また、すべての疾患を合わせた統計全体でも増加を認めていた。2)3)では、ベラルーシでの6-15歳の小児を「高汚染地域(0.7-0.8mSv/年)」と「低汚染地域(0.020.03mSv/年)」とで分けて、初年度(1995-1998年)、3年後(1998-2001年)に調査している。「めまい、衰弱、頭痛、胃の痛み、嘔吐、食思不振、疲れやすい」の訴えの頻度は、初年度、3年後共に高汚染地区の方が、低汚染地区よりも多くなっていた。全ての訴えを合わせた健康異常は、「高汚染地域」では初年度調査で72.2%、3年後で78.9%、「低汚染地域」では、初年度で45.7%、3年後で66.1%で、いずれも高汚染地域が統計的に有意に多くなっていると同時に、症状は3年後も減少することなく続いていた。

以上のようにチェルノブイリ事故後放射線汚染されたベラルーシの小児の健康上の訴えは、多岐にわたり、その頻度は放射線被曝が強い地域ほど高く、症状は持続していた。本邦においても、明確な病気というより、さまざまな訴えやよくある子どもの症状が増加しているというデータが存在しており、これらの症状を放射線被曝と無関係な「不定愁訴」として無視することなく、対象地域との比較を含めた疫学調査が早急に必要である。