福島甲状腺がん多発がさらに明らかに(NEWS No.454 p02)

県外避難者の一次健診補償を、結節陽性者の検診を密に。

2013年6月5日、平成24年度の福島県小児甲状腺検診結果が発表された。
甲状腺がん16名という結果だった。23年度分と合わせて27名という多発である。福島県は、多いことは認めるが、原発による放射能汚染との関係は否定し、スクリーニング効果によって潜在がんを見つけただけという態度を崩していない。これを念頭に分析した。

1. 甲状腺がんは隠しようのないほど多く発症

本来18歳以下の甲状腺がんは1-2名/100万人とされる。朝日新聞によると今回の発表に対し、2007年東北4県の15歳から19歳の頻度は1.7人/10万との報道がなされ、いつの間にか10倍に跳ね上がった。思春期は甲状腺がんが増える年齢である。これに紛らせる魂胆は見え見えであるが、福島県での調査ではがん27名のうち少なくとも17名は15歳以上である。検査実施者は22000名なので、東北4県の頻度と比べても45倍である。ポアソン分布でも10倍以上。同様に0-14歳は15万人に対して6名以上。この年齢は日本では多くても100万人に4人なのでやはり10倍以上の発症である。桁違いの増加は隠しようがない。

2. スクリーニングで潜在がんを見つけたにしては大きいがんである

本来潜在がんは40歳以上で偶然発見され、大きさは1cm未満である。今回のがんはスクリーニングで発見されたものだが、平均の大きさが1.5cm以上と大きい。ゆっくりと発育するというニュアンスを含む潜在がんでと決めつけるのはがん発見の致命的な遅れに結び付く可能性が高く危険である。

3. チェルノブイリの甲状腺がんは100mSv以下でも見つかっている

チェルノブイリでスクリーニング効果が否定された事実は、チェルノブイリ事故以後に生まれた世代ではスクリーニング検査を広げているにも関わらずがんがほとんど見つからなかったということから明らかである。日本の専門家はチェルノブイリの多発はスクリーニング効果ではなかったという意見には沈黙し、チェルノブイリでは被ばく線量が多く、がんは100mSv以上に発生し、福島とは異なるという論理のすり替えでこれに対抗する。ところがウクライナの権威であるトロンコ氏の発表によると、ウクライナでの手術症例345例中、50%は100mSv未満の甲状腺等価線量児であり、15%が10mSv以下であった。100mSv以下でも明らかに甲状腺がんは多数発生した。
この事実はさらに、福島では30mSv以下だからがんは発生しないというドグマをも粉砕する。福島市での10歳甲状腺被ばく線量を24mSvと推定しているWHOですら、今後15年間で7例の超過がんを予測している。たとえ30mSv以下だとしてもがんは発生しないというのは全く根拠がない。

4. スクリーニング効果に逃げることは早期発見の遅れにつながる

チェルノブイリの小児甲状腺がんは、浸潤やリンパ節転移が多く、がんの進展も早かった。最初5mm以下の結節でも、一年後拡大し転移しているという事態は容易に想定される。今回のがんが被ばく1,2年後から見つかったという可能性は高いか、少なくとも否定できないので、検査を密にすべきである。二次検査対象者の針生検実施者は約1/8に過ぎない。針生検の実施基準があいまいなため断言はできないが、仮に全身麻酔下での針生検が必要な年少児の針生検を残しているとすれば、今回の二次検査での経過観察例最短6か月後再検では遅い可能性がある。また、5mm以下の結節を有する児の検査も密にすべきである。被ばく放射線量は結節の大きさに相関するのではなく、結節の有無に相関するからであり、結節のどれががんであるかは針生検以外には進展スピードで判断せざるを得ないからである。全体の予後が良かったとはいえ、10数名が死亡するほどaggressiveであったというチェルノブイリの教訓を忘れてはならない。

5. 県外避難者の無償保証を

避難地域や福島市の一次健診実施率は80%を越える。一方県外避難者は15%以下である。どの地域のどこの医療機関を受診しようが無償を保証し、早期発見できる体制を作り上げるべきである。
なお、県外の検査機関を指定し、そこにだけ県から医療費を支給するということは医師法違反の恐れもある。
結論 早期の甲状腺がん多発を前に、国、県、専門家の対応の非科学性には目を覆いたくなるが、早期発見や治療の遅れを招く可能性も高く、傍観や諦観ではなく、健診の充実を迫っていく必要があると考える。(大阪赤十字病院 山本英彦)

参考文献
第11回福島県民健康管理調査会議資料2
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ほか福島県ホームページより