中国医科大学病院の見学(NEWS No.455 p07)

こんにちは、加畑(医学生)です。さる6月に2週間、中国瀋陽にある「中国医科大学」で臨床実習をする機会を得ました。急診科と内分泌科を各1週間ずつ見学しましたが、急診科で見た農薬中毒の症例に特に興味を惹かれたので、ご報告したいと思います。

まずは、中国医科大学の概要から。瀋陽に位置する中国医科大学は、遼寧省最大の医療機関です。4つの附属総合病院と、1つの消化系病院、1つの精神病院をもち、合計1万床を超える大規模な医療機関です。1932年に軍医大学として設立され、戦後に満州医科大学および奉天医科大学を合併し、中国国内でもかなり歴史の長い大学のひとつです。約8千名のスタッフ、2万名の学生が在籍し、留学生も多く在籍します。特にインドやタイ、日本からの留学生が多く、彼らは中国医科大学で医学教育を受けた後で、本国の医師国家試験を受験するそうです。歴史的に日本とのつながりも強く、日本語で一部の教育をおこなうクラスを持っています。日本語クラスの学生たちは、日本語能力試験1級に合格しなければ卒業できないという要件があり、日本語がとても上手でした。私の実習中はいつも隣で患者さんの話などを通訳してくれて、本当にありがたかったです。実習以外の生活面でもたくさん助けてくれて、大好きな友だちになりました。

さて、農薬中毒についてです。急診の研修医の先生によれば「農薬中毒患者は1週間に1~2人くらい運ばれてくる」とのことでしたが、実際はもう少し多いかもしれません。というのは、私が見学している1週間のうちに4人の患者を見たからです。ここに運ばれる農薬中毒患者のほとんどは、有機リン(殺虫剤)中毒かパラコート(除草剤)中毒のどちらかです。原因としては自殺企図がほとんどで、まれに偶発的な誤飲があります。私が見学した有機リン中毒の50代男性は、てんかん発作中に誤飲したと言っており、自殺企図ではなさそうでした。有機リン中毒に対しては解毒剤(アトロピンとプラリドキシム)があるので半数以上は退院できるが、パラコート中毒は確立した治療法がなく10人中6~7人は死亡する、というお話でした。パラコートの経口最小致死量は30~40mg/kgかそれ以下といわれ、成人でスプーン1杯程度の原液量です。パラコートは中国語で「百草枯」と呼ばれていて、農民は地元の商店で容易に安価に購入できるそうです(1本20元くらい)。「どうしてこれほど致死性の高い農薬が野放しにされているのか」と疑問に思い、少し調べてみました。

その結果は、次号で報告します。

(京大医学部 加畑)

※写真は農薬の容器です。