論評紹介「Nuclear error : 核事故処理の誤り」(NEWS No.458 p05)

1869年英国で創刊された学術雑誌「Nature」の本年9月5日号EDITORIAL(エディトリアル・論評)に下記の題目の記事が掲載されました。
この雑誌には、「X線の発見」(1896年レントゲン)、「DNAの構造」(1953年ワトソン&クリック)など注目された論文が掲載されてきており、世界でも「権威あり」とされている雑誌に「フクシマ」の事態、東電や日本政府の対応がどのように評価されているか?を学ぶことが出来ました。拙い訳で恐縮ですが紹介します。(小児科医 伊集院)

「Nuclear error:核事故処理の誤り」

日本の破壊された福島第一原発からの汚染水漏れは、1986年ウクライナ・チェルノブイリでのメルトダウン(炉心溶融)以降で世界最大の核危機の終わりがまだ見えていないことを我々に厳しく思い出させる。2011年3月、地震と津波が福島原発を破壊したのち、除染の努力は長期に続く、技術的にも難しく、また莫大な費用がかかるであろう事が明らかとなった。今や、作業が原発の所有者である東京電力にとっては重大過ぎることが判明している。日本政府は9月3日、除染を引き継ぐ計画を発表したが、その介入は遅れたものである。

事故後2年6カ月の間、東京電力は福島の壊れた3か所の原子炉にある核燃料に関する問題の質と重大性を繰り返し認めそこなった。燃料棒が過熱するのを防ぐために原子炉の芯に、毎日4万リットルほどの水が注ぎ込まれている。ごく最近、東京電力は汚染水が原子炉地下に漏れ、コンクリートの割れ目を通って、地下水や近海に入っていることを認めた。利用できる独自の放射線暴露の測定値はほとんど無く、汚染水漏れがヒトの健康、環境や食物の安全性にどの程度影響するかは気のもめることだが不明である。しかし問題は、その点に留まらない。今、使用済の冷却水(浄化装置による処理を受けているが、トリチウムや他の危険な放射性原子核を含む)を入れている約1000の貯蔵タンクが在る。水漏れはこのシステムがきちんとガードされていない時限爆弾であることを明らかにしている。

ゴムの合わせ目で密閉したパイプや貯蔵タンクが漏れやすいことは秘密ごとではない。漏水発見のための型通りのパトロールへの東京電力の信頼は、たとえ無責任でないにしても軽率なものだ。最新の事件への対応で、この企業がセンサー(感知装置)と追加の安全管理でタンクを修理しようとしている事は、一時しのぎのやり方で、最初、貯蔵施設が設置されたことをまさしく強調している。一方、絶え間なく溜め込まれる汚染水の運命は定まっていない。今年の初め頃、汚染水を海に投げ出すという提案が、地元の漁師たちからの激しい反対に遭遇したことはもっともなことである。

日本政府による今までの対策や情報政策を考慮に入れると、状況を管理して国民に知らせる点で、政府が東京電力よりも幾分か有能かどうか、人は疑うだろう。この週末にかけて、汚染水漏れタンク近くの放射線量は初めの報告値より18倍高いことが判明した。単なる例外として始まった汚染水漏れは本物の危機に変わった。日本は国際的専門家の助言を仰ぐことを始めるべきだ。2、3か国を除いて名前を挙げると、米国・ロシア・フランスと英国……全て、核工学、除染と放射線保健(防護)でのノーハウを持っており、それらは日本に十分役立つだろう。調査とクリーンアップでの国際協力は放射能監視と危機緩和の有用性と有効性に関して、粉々になってしまった国民からの信頼回復を手助けするだろう。

汚染水漏れの最も重大な影響は、福島沖と太平洋に対するものである。それは厳重に監視されねばならない。2011年と2012年の日米の科学者による環境影響評価の後、2件の主要な問題の回答がなされないままである。どれ程の放射能が海にまだ入り込んでいるのか?そして、事故のずっと後になって数種から得られた高い放射能測定値を考慮すると、その地域の魚や海産物はいつ安全に消費できるようになるのか?汚染水漏れはこれらの疑問に答えることを、より差し迫ったものにしている。

環境への影響について信頼に足る評価をするためには、長寿命の放射性原子核、特にセシウム137、ストロンチウム90とプルトニウム239を付着した海産物網の汚染データを、科学者は集め得る必要がある。また彼らは、汚染源を知り、放射性核種の地下水、沈殿物や海流への輸送を調査する必要がある。今の日本の首相、安倍晋三とその政府は科学を後援すると約束した;彼らは情報を収集し共有する上で、世界中の研究者を奨励し支えるべきである。チェルノブイリは事故後調査の機会を逸した……少なくとも、その意味では福島はずっとより良く出来るだろうに。」