1)58人の癌の発見と26人の手術
福島県が発表した甲状腺癌検診で、原発周辺地域である「浜通り」地域の2011年度検査から13人、少し離れた福島市などの「中通り」の12年度検査から44人、さらにより離れ会津地方などの13年度検査から1人が発見されました。
うち26人がすでに手術を受けています。(表1、4)
重要な点は、政府や県が、線量はとても低いので安心だとしていた、「中通り」の地域でも、原発周辺に匹敵する癌患者が発見されていることです。
これは、原子力規制委員会が帰還の基準を、空間線量1mmSv/年から、20mmSv/年に変更し、障害がないかのように主張していることが真っ赤な嘘であることを証明する事実でもあります。
(表1)
受診者数 | 2次検査対象者中終了% | 癌と疑い数 | |
---|---|---|---|
23年度 | 41793 | 81.50% | 13 |
24年度 | 138865 | 71.90% | 44 |
25年度 | 58427 | 6% | 1 |
2)癌のアウトブレイクは明白
岡山大学津田敏秀教授によりますと、2011年度の発見率は、日本の15-19才の甲状腺癌罹患率100万対5人と比較しても31倍(今から症状出るまでの「平均有病期間」2年として)から、10倍(同6年)であり、例え15-24才の罹患率の11人と比較しても、それぞれ、14倍から4.8倍となります(表2)。
今回特に発見率の高かった、24年度の中通り中地域(二本松市、本宮市、大玉村、三春市)で、これらの値が、15才-19才の対100万罹患率5人と比較して、実に61.95倍から20.65倍になります。
これらの発見率から計算すると、有病期間を29年(12年度)、65年(12年度)としても、一般のお子さんからの発病率よりも統計的有意に高い罹患率なるとのことです。例え、「10-20年早く見つかった癌」としても、極端に多い数であることがはっきりしました。
この分析でどう考えても多発は確実ですが、チェルノブイリとの比較などもう少し考えてみます。
(表2)
全国発生率 | 5人/100万人 | 11人/100万人 |
平均有病期間 | 発生率比(95%信頼区間) | 発生率比(95%信頼区間) |
2年 | 31.33(17.58-53.80) | 14.24(7.99-24.45) |
4年 | 15.67(8.79-26.90) | 7.12(4.00-12.23) |
6年 | 10.44(5.86-17.93) | 4.75(2.66-8.15) |
3)若年者での発見率が激増
チェルノブイリ事故で特徴的なのが、甲状腺がん患者の年齢が低いことです。
日本の統計では、甲状腺癌の罹患率は対100万人当り、0-9才で0、10-14才では1.008と極めて低く、15-19才で5人、20-24歳で11人と増加します。
福島検診での年齢層の正確な分母が公開されていませんので、近似的な被曝時の分母を代用しますと、100万人当りの発見率はそれぞれ、19、356、1590となります。11-15才で考えて見ますと、100万人当り356との値は、10-14才の対罹患率1.008の355倍、年齢層が1年ずれているので、例え15-19才の罹患率をとしても32.3倍になります。
(表3)
年齢を11-15才に限定した場合 | ||||
---|---|---|---|---|
受診者数 | 癌患者数 | 対100万 | 倍率 | |
23年度 | 12305 | |||
24年度 | 41006 | |||
計 | 53311 | 19 | 356 | |
国立がんセンター癌罹患率 | ||||
10-14才 | 1.003 | 355 | ||
15-19才 | 11 | 32.3 |
実は、発表されている2次検診時年令11-15才のお子さんは、1次検診で癌の可能性を疑われた方々ですから、その時の年令は10-14才に近づくと考えられます。
チェルノブイリでは多かった若年層の甲状腺癌が、福島でも少し年齢層が高いとはいえ、高い発見率であることが、明らかです。
4)12年度検査で発見された1人は13才の男性、癌の径が30.3mmととても大
2011年度では最大の癌は33mm、12年度ではなんと40.5mmという大きさです。
(表4)
診断時年齢平均(範囲) | 腫瘍径平均(範囲) | 手術数 | |
---|---|---|---|
23年度 | 17.2(13-20) | 14.7+/-6.7(6-33) | 10 |
24年度 | 16.7(8-21) | 14.6+/-8.6(5.2-40.5) | 16 |
25年度 | 13 | 30.3 | 0 |
大きさは「平均+/-標準誤差(?)」で紹介されているので、大きいガンが何人なのかわかりません。具体的な数字で紹介すべきです。
ともかく、これらの大きな癌はすでに症状を示している可能性が高く、検診での発見率ではなく、症状が出ている、罹患数と数えるべきと思われます。
以上は、もはや「スクリーニング効果のためだ」とか、「超音波の性能が上がったからだ」とか、「放射線障害なら早すぎる」などと,ごまかされない事実なのです。
5)26人の手術を受けたお子さん方も、含め検診の対象となったお子さんは原発事故の被害者
まず、検診を受けなかった方も発病への不安はあります。
検診を受ければ検診の結果や発病への不安、2次検査を受ければ針生検の辛さと結果への不安、これらだけでも、原発事故の被害者です。
ましてや、癌と診断されれば強い不安が生じ、手術を受ければ手術そのもののしんどさ、合併症の辛さ、傷跡、が長く残ります。
治療法は明らかにされていませんが、多くは甲状腺全部を摘出手術した可能性があり、その場合は生涯にわたり甲状腺ホルモンを服用しなければなりませんし、多くの症状に悩まされる方もいるようです。
さらに、転移があれば、侵襲の大きなリンパ節の郭清術や放射線治療になります。子どもたちの苦難がすでに始まっているのです。
私たちは、これらの癌の大部分は被曝によるものと考えています。しかし、県が主張するように、たまたま10年20年後に発病する癌を早く見つけただけだった人が居たとして、がん検診のために(もし単に早く発見されたのなら)特に予後がよくなる証拠もないのに、10年20年も早く苦痛が始められたのです。
いずれにしても、原発事故がなければ生じなかった被害です。これらの被害に対する十分な補償がされるべきです。
6)今後の健康障害を最小限に
チェルノブイリ事故で今も生じており、福島でも甲状腺癌が暗示する、それ以外のさまざまな健康障害に注目することが必要です。
障害が発生すれば苦痛は避けられず対応も困難です。
汚染地域からの避難、食物などからの被曝の徹底した除去が一層求められます。
(はやし小児科 林)