研究報告 福島甲状腺結節、がん;がんの大きさの分析、被ばく線量との相関関係に関する検討(NEWS No.460 p03)

2011年3月原発事故後、同年10月から、事故当時18歳以下の福島県下全住民を対象に甲状腺エコー検査が開始された。県の当初の目論見と異なり、2012年から甲状腺がんが発見されるようになり、2013年9月30日現在、疑いも含めて58名の甲状腺がんが発見された。2011年度実施の検査で13名、10万人当たり30.3人、2012年度が44例、10万人当たり30.7人である(残り1名は2013年度であり、今回の検討からは除いた)。

(1)福島の小児甲状腺がんは異常多発

上図のごとく、日本では甲状腺がんは長じるに従い増加し、60歳前後の女性が最大で、22人/10万人となる。この年代でも、年30人以上発症する確率は2.2%以下であり、通常ありえない多発である(ポアソン分布による)。
普通は100万人に1-2名しか発症しないがんが一つ県の一部で44名も発見されている事態は誰が見ても異常多発としか言いようがないと思われるが、将来発症する(かもしれない?)がんをたまたま無症状者のスクリーニングで発見しただけだ(=スクリーニング効果)という、すでにチェルノブイリでは否定された理由を盾に無視されている現状がある。

上図は福島小児甲状腺がんの年齢、性分布である。17歳以下の男女比はほぼ1:1成人の甲状腺がん男女比(1:8くらい)とは明らかに異なる。スクリーニングではありえない。また、6-10歳の2名という発見についてだが、この年齢で針生検を実施したということは、無症状でない=発症である可能性が極めて高く、同じようにポアソン分布によれば、この年齢での0名か1名までの累積確率は0.995321で、2名以上の発症は0.5%以下であり通常はあり得ない。

(2)甲状腺がんの大きさとスクリーニング効果説

発見された甲状腺がんの大きさからスクリーニング効果説を批判してみよう。チェルノブイリ甲状腺多発のスクリーニング効果説否定の根拠となったことの一つにスクリーニングで発見されるがんにしては大きかったこと(通常スクリーニングで見つかる甲状腺がんは1cm以下)があげられる。Astakhovaによればチェルノブイリでは小児甲状腺がん48名中、4cm以上が2例、1-4cmが23例であった(他23名は1cm未満)。

上図は2012年度44例のがん症例の結節の大きさを正規分布曲線で示したものである。計算すると、通常潜在がんや偶発がんではないといわれる結節の径1cm以上どころか、径2cm以上のがんが14名、2.5cm以上が6名いると推定される。スクリーニングがんとしては大きすぎる。ちなみにこの2cmという大きさは、アメリカSEERが、アメリカでの主として成人甲状腺がん増多のスクリーニング原因説を否定する根拠の一つとなった大きさである(Enewold 2009)。

上図のように、径2cmの大きさは、小児であればしこりとして発見される(=発症)だろう。2cm以上は14名であり、バックグラウンドでの甲状腺がんの発症率を5人/10万としても(これは25-29歳の発症率に匹敵)、10名以上発症する確率はわずか1.5%以下である。
2.5cm以上の6名のみが発症としても、すべて16-18歳として、通常10万人に0.8の頻度のがんが6名出現する確率は0.02%(ポアソン分布による)に過ぎず、表をみても分かるように3名以上の発症は通常ありえない数である。

(大阪赤十字病院 救急部 山本)

(3)放射線量と甲状腺がん、結節との関係の分析 は次号で掲載予定です。