医療トピックス 環境省・福島県立医大・経済協力開発機構/原子力機関主催「放射線と甲状腺がんに関する国際ワークショップ」(NEWS No.463 p06)

2月21-23日、環境省・福島県立医大・経済協力開発機構/原子力機関主催の、「放射線と甲状腺がんに関する国際ワークショップ」が開催されました。
座長は、長崎大学長瀧重信氏であり、その方向性は開始前から想像できるものでした。
紹介されている38人のうち19人が海外のWHO、ドイツ放射線防御委員会、米国国立がん研、OECD、ICRP、ロシア、ベラルーシなどから招かれた多彩な顔ぶれでした。しかし、甲状腺がんの多発問題に関する発表内容は、1)甲状腺がんが予後のよいもの(死亡率は低い)だ(Chr.Reiners WHO)、2)甲状腺がんの発生/発見は診断機器の高性能化もあり、世界的に増加している(Schuz, )、山梨での超音波スクリーニング検査結果で多数発見された、韓国では甲状腺がんが大変増加している、3)福島での被曝線量はとても少ない〈外部被曝、内部被曝、甲状腺被曝評価のいずれでも低い、4〉原爆被害者の調査で100mSV未満の被曝では甲状腺疾患との関連は不確実、5)チェルノブイリでの甲状腺がん多発は「スクリーニング効果」だなど、福島での甲状腺がん多発を否定するために利用できそうな発表のオンパレードでした。
さらに、本ニュース前月号でその論文を批判した、ドイツ放射線防御委員会のJacobが、被曝による甲状腺がん発生増加は極めてわずかだと報告しています。
まるでそれらの発表に守られるように、福島医大の鈴木教授は福島県の健康管理調査で発見された甲状腺がんの多発が、福島原発事故の被曝によるものであることを明確に否定しています。その理由は、1)福島は被曝線量がとても低い、2)チェルノブイリでは、4-5年して初めて甲状腺がんの増加が見られたのであり、福島での増加は早すぎる。3)発見された甲状腺がん患者の年令分布がチェルノブイリと比べ高年齢過ぎる、4)福島で発見された甲状腺がんのタイプは1例を除き乳頭がんの典型的タイプtypical PTCsであり、チェルノブイリでは他のタイプも多い、としています。
1) については、Tokonamiらのデータ
ではとても低くなっていますが、WHOは(今回のワークショップではほとんどが50mSV以下だと発表しましたが)地域によっては100mSvを超すところもあるとしています。最近の被曝線量操作(避難指示解除予定地域で昨年実施された個人線量計調査:次ページ参照)が示すように、より高かったデータが低く操作されている可能性があり、信頼できません。
2)チェルノブイリでの甲状腺がん増加の事故後3-4年のデータは、超音波での発見ではなく、症状がでて診断された「発生数」です。福島の場合は、超音波で「発見された」症状がないとされている(一部はあったと思われますが)比較的小さながんです。これらの小さながんが大きくなり症状が出るためには一定の期間が必要であり、チェルノブイリでも早期から超音波による検診を実施していたら福島と同じ結果になっていたと思われます。従って、このいいわけはまちがいです。
3) 年齢分布に関しては、たしかにチェル
ノブイリ事故後の超音波検診で発見された患者年令は極めて低いものです。しかし、その発見時期は、事故から4-5年も経てからです。症状がでて発見された甲状腺がん患者は発見時10才以上がほとんどで、事故時は9から20才でバラついています(山下ら2000.2.29)。また、チェルノブイリと福島では、汚染の程度や環境の違いなど様々な要因で年令分布は変化する可能性もあり、このことをもって被曝原因を否定することにはなりません。
4)甲状腺乳頭がんのタイプについて、鈴木氏があげている根拠論文を取り寄せ検討しました。これも根拠にならないことの詳細は次号以後に報告します。
はやし小児科 林