くすりのコラム 糖尿病治療剤(NEWS No.466 p08)

「SGLT2阻害剤」患者利益のエビデンスは示されておらず、重篤な副作用が数多く存在
糖尿病患者は国内で1500万人とも言われる。経口糖尿病治療剤は、長く服用し続ける医薬品で、世界的にも製薬企業の代表的なターゲットとなり、開発競争が激化している。最近米国医師会の発行するJAMA internal medicine誌2014年3月号が「糖尿病治療剤 その際限のない膨張にどこで歯止めをかけるのか」の記事を掲載した。
すでに糖尿病治療剤は10種以上も存在しているが、これにSGLT2阻害剤という新たなクラスの薬剤が加わった。SGLT2は近位尿細管で糖を再吸収し尿中に糖が出ないようにしている輸送体で、これを阻害する作用機序の薬剤である。2014年4月にイプラグリフロジン(スーグラ?)、5月にダパグリフロジン(フォシーガ?)、ルセオグリフロジン(ルセフィ?)、トホグリフロジン(アプルウェイ?、デベルザ?)の3剤が発売され、年内にはさらにカナグリフロジン、エンパグリフロジンの2剤が加わり、6剤になる見込みである。英国で発行している国際医薬情報誌スクリップが「バトル・ロワイヤル」と形容して報道する過熱ぶりである。
日本では医師が新薬に飛びつく「新薬シフト」と呼ばれる傾向が顕著で、また糖尿病治療剤は従来品目に上乗せする形で用いられる。イプラグリフロジン(スーグラ?)の上市後14日間の処方の立ち上がりが、トップシェアのDPP4阻害剤シタグリプチン(ジャヌビア?、グラクティブ?)のそれと同じで関心の高さを示すとの報道がされている。
経口糖尿病治療剤で、まず指摘せねばならないのは、多種の薬剤があるがいずれも血糖降下作用をもとに承認されていることである。本来の目的である脳卒中、心筋梗塞など心血管イベントの抑制など、患者利益となる臨床効果のエビデンス(患者アウトカム)が示されている薬剤は皆無に近い。独立系医薬情報誌プレスクリル・インターナショナルは、わずかにメトフォルミンとグリベンクラミドの2剤のみで、前者は肥満患者での全死亡の減少と合併症の減少であり、後者はそうした限定はないが合併症の減少のみで全死亡の減少は示されていないとしている。
SGLT2阻害剤であるが、欧米で開発が先行し、米国のfirst in class としてダパグリフロジンが2011年7月、FDA諮問委員会で審議された。しかし、重篤な副作用が多いことから、承認は賛成6、反対9で否決された。安全性の懸念は、乳がん、膀胱がん、薬物性肝毒性、それに本剤の薬理作用に直結する泌尿器感染、慢性浸透圧性利尿による脱水などであった。ついで2013年1月、カナグリフロジンが諮問委員会にかけられ、承認されたものの賛成10に対し反対5であった。カナグリフロジンの承認を受け、ダパグリフロジンが再挑戦し承認される経過をたどる。EUでは欧州医薬品庁EMAが申請されたカナフロリジンについて同様に安全性を問題にしたが、2012年11月管理可能として承認した。米国の医薬品監視団体パブリックシティズンは諮問委員会公聴会で両剤に承認反対の立場を表明し、ダパグリフロジン、カナグリフロシンともに薬剤評価は”DO NOT USE”である。
日本糖尿病学会は、イプラグリフロジン発売後1か月間の市販直後調査を踏まえ、2014年6月13日に「SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」を公表した。「重篤な副作用の懸念のうち、残念ながらいくつかが実現化した」と指摘、「特に安全性を最優先して適正使用されるべき」と明記し、SU剤やインスリン分泌促進剤との併用時は減量や、脱水対策(脳梗塞のリスク)、原則2剤の併用にとどめるなど7項目の推奨を示している。
寺岡章雄 (薬剤師)

「SGLT2阻害剤」患者利益のエビデンスは示されておらず、重篤な副作用が数多く存在
糖尿病患者は国内で1500万人とも言われる。経口糖尿病治療剤は、長く服用し続ける医薬品で、世界的にも製薬企業の代表的なターゲットとなり、開発競争が激化している。最近米国医師会の発行するJAMA internal medicine誌2014年3月号が「糖尿病治療剤 その際限のない膨張にどこで歯止めをかけるのか」の記事を掲載した。
すでに糖尿病治療剤は10種以上も存在しているが、これにSGLT2阻害剤という新たなクラスの薬剤が加わった。SGLT2は近位尿細管で糖を再吸収し尿中に糖が出ないようにしている輸送体で、これを阻害する作用機序の薬剤である。2014年4月にイプラグリフロジン(スーグラ?)、5月にダパグリフロジン(フォシーガ?)、ルセオグリフロジン(ルセフィ?)、トホグリフロジン(アプルウェイ?、デベルザ?)の3剤が発売され、年内にはさらにカナグリフロジン、エンパグリフロジンの2剤が加わり、6剤になる見込みである。英国で発行している国際医薬情報誌スクリップが「バトル・ロワイヤル」と形容して報道する過熱ぶりである。
日本では医師が新薬に飛びつく「新薬シフト」と呼ばれる傾向が顕著で、また糖尿病治療剤は従来品目に上乗せする形で用いられる。イプラグリフロジン(スーグラ?)の上市後14日間の処方の立ち上がりが、トップシェアのDPP4阻害剤シタグリプチン(ジャヌビア?、グラクティブ?)のそれと同じで関心の高さを示すとの報道がされている。
経口糖尿病治療剤で、まず指摘せねばならないのは、多種の薬剤があるがいずれも血糖降下作用をもとに承認されていることである。本来の目的である脳卒中、心筋梗塞など心血管イベントの抑制など、患者利益となる臨床効果のエビデンス(患者アウトカム)が示されている薬剤は皆無に近い。独立系医薬情報誌プレスクリル・インターナショナルは、わずかにメトフォルミンとグリベンクラミドの2剤のみで、前者は肥満患者での全死亡の減少と合併症の減少であり、後者はそうした限定はないが合併症の減少のみで全死亡の減少は示されていないとしている。
SGLT2阻害剤であるが、欧米で開発が先行し、米国のfirst in class としてダパグリフロジンが2011年7月、FDA諮問委員会で審議された。しかし、重篤な副作用が多いことから、承認は賛成6、反対9で否決された。安全性の懸念は、乳がん、膀胱がん、薬物性肝毒性、それに本剤の薬理作用に直結する泌尿器感染、慢性浸透圧性利尿による脱水などであった。ついで2013年1月、カナグリフロジンが諮問委員会にかけられ、承認されたものの賛成10に対し反対5であった。カナグリフロジンの承認を受け、ダパグリフロジンが再挑戦し承認される経過をたどる。EUでは欧州医薬品庁EMAが申請されたカナフロリジンについて同様に安全性を問題にしたが、2012年11月管理可能として承認した。米国の医薬品監視団体パブリックシティズンは諮問委員会公聴会で両剤に承認反対の立場を表明し、ダパグリフロジン、カナグリフロシンともに薬剤評価は”DO NOT USE”である。
日本糖尿病学会は、イプラグリフロジン発売後1か月間の市販直後調査を踏まえ、2014年6月13日に「SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」を公表した。「重篤な副作用の懸念のうち、残念ながらいくつかが実現化した」と指摘、「特に安全性を最優先して適正使用されるべき」と明記し、SU剤やインスリン分泌促進剤との併用時は減量や、脱水対策(脳梗塞のリスク)、原則2剤の併用にとどめるなど7項目の推奨を示している。
寺岡章雄 (薬剤師)