医療トピックス―がんを見る視点― 過剰診療・治療の典型:マンモグラフィーの検討(NEWS No.467 p04)

厚労省は、「年間1万人が乳がんで亡くなっている」と脅かし、「早期がんで発見すれば、ほぼ治る」といって、乳がん検診を勧誘しています。この方法は日本だけでなく、世界的にされています。例えば、イギリスでは「検診で200人に1人が乳がんでの死亡を防ぐ」という風になっています。BMJ6月21日号では、ノルウェーでの現代的マンモグラフィーによるスクリーニングでは、乳がんでの死亡率が28%も減少するとの結果が報告されています。これだけを読むと、やっぱりマンモグラフィーは実施すべきかとも思います。
この乳がん検診は、とても強力に行われてきました。それは、乳がん検診の主要な検査機器であるマンモグラフィーというレントゲン装置の販売が巨大医療機器企業に巨額の利益を上げたものと思われます。この器機は日本でほぼ満杯になったようで、こんどは超音波検査やPETによるスクリーニングが宣伝されています。
上記の、検診を勧める言葉が正しいかどうか見てみましょう。
コクラン共同計画の世界のデータの分析では、50歳以上の女性千人が、検診を受けなかった場合に、10年間に乳がんで死亡する人は5人、全てのがんで死亡する人数は21人です。
検診を受けた場合にはとても減るはずです。見てみましょう。千人検診を受けると、乳がんでの死亡は5人から1人減少して4人になるので、2割(さきほどのノルウェーは28%)の死亡を減らした、と宣伝されるのです。それでも、「ほぼ治る」などとはとても言えません。
実は、千人検診を受けて、1人死亡を減らだけです。しかし、それでも1人減らしたのだから良い、とも考えられます。ところが、全てのがんでの死亡数は、検診しなかった人と同じ21人で、1人も減らしたことにならないのです。乳がんが1人減るが他のがんでの死亡が1人増えるだけなのです。ですから、乳がん検診はがん死亡を減らすことができないと明記しなければなりません。
さらに問題なのは、検診を受けた1000人中100人、実に一割の人が、がんでもないのに、がんの可能性が高いと脅かされたり、がんと思われる部位を取り出して検査をする、という心身の苦痛を味わうことになります。より一層の問題は、千人中5人が、がんでもないのに部分的ないし全体の乳房を取ってしまわれています。
マンモグラフィーによる検診:50歳以上で10年間検診を受けた場合(コクランレビューのまとめ BMJ20140517号 p25)
検診を受けない人(1000人中)検診を受けた人(1000人中)
利益乳がんでの死亡数54
全てのがんでの死亡数2121
がんでもないのにがんだとされたり生検を受けた人数-100
進行しないがんをもち不要な部分切除や全摘を受ける数-5
まとめますと、1000人検診を受けると乳がんでの死亡が1人減ります。しかし、がん全体での死亡は1人も減らず、100人がいろいろ検査され、5人が不要な乳房摘出術を受けることになります。これこそ、過剰診療・過剰治療です。
福島の甲状腺がん検診の治療はこの問題を十分念頭に置いて検討しなければなりません。
(はやし小児科 林)