くすりのコラム アルツハイマー型認知症治療薬は効くのか?(NEWS No.467 p08)

アルツハイマー型認知症の薬は効いているのでしょうか?
そのような疑問を感じながら調剤しているのは、薬の効果より介助者や介護サービスの充実によって患者さんが安定しているように感じているからです。
アルツハイマー型認知症貼付薬リバスチグミン「イクセロンパッチ:ノバルティス」「リバスタッチパッチ:小野薬品」1枚346.8円(4.5mg)~439.7円(18mg)の承認審査報告書では国内の試験でプラセボ群に対する優越性が示されなかったとあります。その理由として介護サービスの利用により有効性評価のための介護者からの情報量低下や被験者の生活スタイルの変化に伴い正確に情報を得ることができなかったことがあげられています。その後、影響を及ぼした要因を検討し調整解析を行いプラセボ群と比較して有効性が示されたとして承認されています。
国内売り上げトップ10に入る、アルツハイマー型認知症治療薬「アリセプト」はエーザイの主力商品です。「アリセプト」の承認審査報告書によると高度アルツハイマー型認知症を対象とした二重盲検比較試験で325例中の302例を安全性解析対象集団とされ、このうち有効性評価項目が規定にあてはまる290例がFull Analysis Set(FAS)とされ、有効性の主要な解析対象集団とされています。また、FAS解析対象例のうち、59例を除いた231例がPer Protocol Set(以下、PPS)とされています。このような解析によってプラセボに対する有効性を証明できたとしています。
J―ADNI(アドニ)「日本アルツハイマー病脳画像診断先導的研究」はアルツハイマー型認知症の脳画像診断と病状の進行の関連性を客観的に評価できる診断基準を確立することを目的としています。この国家プロジェクトは産学連携の形で行われ経済産業省、厚労省、文部科学省が計24億円、製薬会社11社(アステラス・エーザイ・第一三共・塩野義・大日本住友・武田・田辺三菱・日本イーライリリー・MSD・ファイザー・ブリストルマイヤーズ)が計9億円を支出して行われていました。ところがこの試験でエーザイ社員が関与したデータの改竄が発覚したため厚労省・経済産業省は今年度の予算5億円を一時凍結すると表明しました。
神経病理学者のアロイス・アルツハイマーが診察したアルツハイマー病患者アウグステ・データーは褥瘡による敗血症で1906年に亡くなりました。亡くなる4年ほど前に撮られた絶望の表情を浮かべた1人ぽっちのアウグステの写真をみると、十分なケアを受けられなかった時代を感じます。
ケアの重要性はエーザイのHPで学ぶことができます。アニメちびまる子ちゃんのキャラクターが物忘れや徘徊、拒否などの症状に介護者はどのように接したらよいのかを丁寧に解説しています。このようなケアがあればアウグステももう少し幸せそうな写真が残ったかもしれません。
アルツハイマー型認知症患者で介護保険の要支援1・2の認定を受け通所介護や訪問介護サービスを受けている人が大勢います。ところが軽度利用者の切り捨て、所得の高い高齢者の利用料の値上げという2015年度の介護保険制度改正(悪)がありました。要支援者の訪問介護とデイサービスを市町村の地域支援事業に移すというのです。
「ひと」でしか癒されない病気で介護サービスが受けられなくなった時、病状が悪化しないか心配です。
(薬剤師 小林)