8月24日、福島県民健康調査の6月21日現在のデータが公表されました。
今回に注目すべきは、これまで公開されていなかった手術の適応の基準が発表されたことです。8月28日には鈴木眞一福島医大教授が日本癌治療学会で発表し、手術例は、10mm以上かリンパ節や他臓器転移があり、手術は基準に基づいたものだとしています。
もし、この手術の適応が間違っていなく、手術をしないと子どもたちに危険が迫っているのだとしたら、これまで、山下俊一氏や鈴木氏が主張していた、たくさんの甲状腺がんが発見されたのは大人になって症状がでてくる小さながんを単に早く発見しただけ、という「スクリーニング効果説」が全くのでたらめだったことになります。
この手術適応は症状がでたり、診察でたまたま発見された甲状腺がんに一般的に使われているものだと考えられます。すると、福島での手術例は、全国規模で集計されている甲状腺がんの「罹患率」(=年間の発病率)とほぼ同様のものとなります。そこで、その罹患率と福島県での手術数(表、右欄)とは直接比較できることになります。そうすると、下表下段の福島での人口に対する手術件数率は、全国平均(15-19歳)の24.6倍にもなります。例え、20-24歳の全国平均と比べても8.7倍にもなるのです。
発見数 | 手術数 | ||
福島の甲状腺がん | 103 | 57 | |
6歳以上受診者数 | 209761 | 209761 | |
福島の率(対10万) | 49.1 | 27.1 | |
全国平均罹患率(対10万) | 15-19歳 | 1.1 | 1.1 |
20-24歳 | 3.1 | 3.1 | |
全国平均に対する福島の倍率 | 15-19歳 | 44.6 | 24.6 |
20-24歳 | 15.8 | 8.7 |
鈴木教授は同時に、原発事故の影響と考えにくいとも報告しています。それでは、このようなダントツに高い福島の子どもたちの甲状腺がん罹患率はどうしてなのでしょうか。
逆に、もし手術が患者にとって役に立たないものであるとすれば、重大な人権障害を、福島県として引き起こしているわけです。子どもたちは原発事故とかってな検診と手術で2重の被害を受けたことになります。
今回の発表を受けて、会津地方の集計が進み、会津地方でも9人の甲状腺がんが発見されました。それを理由にして、検討委員会の会長は、(会津地方でも相当数のがんがでたので)地域差が見られず、被曝が原因とは言えない、由の発言をしています。
これはまるきりの間違いで、24年度だけでも福島市と近接する4自治体との間には発見率の差があります。また、今回問題となった25年度の会津地方は、被曝から平均3年間を経た時期の検診です。単純に考えても、平均1年後の検診である23年度より、2年後実施の24年度は2倍、25年度では3倍のがんが発生すると考えられます。そう考えて比較すると,25年度と比較して23年度は25年度の2.9倍で明らかに地域差が見られます。(表)
1次検診受診者数* | 被曝後、年間の発見人数** | オッヅ比 | 95%信頼区間 | ||
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23年度 | 36137 | 14(14÷1) | 2.859 | 1.322 | 6.185 |
24年度 | 121614 | 27(54÷2) | 1.633 | 0.827 | 3.224 |
25年度 | 88542 | 12(35÷3) | 1 |
** 被曝から3年後の25年度を1とした場合
注:表では会津地方だけではがん人数が少なすぎるので、25年度全体の数字で計算しました。
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そもそも、地域差が明確にならないようにしたと思われるような検診計画自体が問題です。ともかく、こんなことも検討せず、地域差がないので、被曝と関係ないなどとは、全く言えないはずです。
はやし小児科 林