くすりのコラム 薬学生の動物実験(NEWS No.470 p08)

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薬学生の学生実習の内容は大学によって違います。
今年入社した薬剤師の出身大学ではマウスの採血が学生実習にあり、生きたまま眼球を引きちぎって血液を搾り取るそうです。やり遂げなければならず、マウスがかわいそうという気持ちは次第に麻痺していった、せめて食べられるなら食べてあげたかったと話してくれました。

(独)産業技術総合研究所の動物実験・実験動物取扱ガイドラインによると「眼窩静脈叢を採血経路とする方法は過去に頻用されていたが苦痛を伴う可能性があるという理由で、この方法は問題視されるようになっている。眼窩静脈叢からの採血はいずれの動物種を用いる場合も必ず全身麻酔下で行う必要があり、一部の国では麻酔の実施が規則で定められている。」とあります。

EUでは「科学的な目的のために使用される動物の保護に関する2010 年9 月22 日の欧州議会及び理事会指令2010/63/EU⑵」を制定し、施行しました。各加盟国は、新指令の内容を国内法で定め、2013 年から実施し3月に化粧品の動物実験が完全に禁止になりました。RussellとBurchによって1959年に提唱された3Rの原則「Replacement(代替)」「Reduction(削減)」「Refinement(改善)」つまり動物の使用に代わる方法、使用する動物の数を削減する方法、動物の苦痛を軽減する方法を選択することが国際的に近年ますます求められています。先日も東海大、東大の研究チームが動物実験に代わるプラスチック製の基盤上にヒトの腸や肝臓などの細胞を培養した「人体チップ」を開発したと報道がありました。従来の動物実験では有効性、安全性を正確に判断できなかったがチップが実現すれば効率よく新薬の開発ができるとし5年後を目標に実用化を目指すとされています。

サリドマイドの催奇形成はげっ歯類では現れず、動物種によって用量、投与胎齢時期によっても異なります。カネボウ美白化粧品の動物実験でも白斑の害を知ることはできませんでした。動物実験で得られるデータはヒトに当てはまらない、薬害を動物実験で再現することは容易ではないという動物実験の限界が社会的に認知されていません。したがって新薬をいかに慎重に使うべきなのかが理解されていないのです。

動物実験がかわいそうだという気持ちを持つことは単なる「感傷主義」として捉えられてきました。
「罪なきものの虐殺・動物実験全廃論」ハンス・リューシュ著には動物に対する残酷な実験によって実験者の倫理観も汚され、人間性の喪失に繋がることが綴られています。薬剤師が患者さんから求められている姿を考えたとき、冒頭の彼女のように実験動物に共感する心、動物の命を無駄なく全てを使ってあげたかったという気持ちは尊重されなければいけません。

薬剤師 小林