12月大阪小児科学会演題紹介「福島原発事故‐健康被害の検討」(NEWS No.471 p02)

12月6日の大阪小児科学会には上の統一テーマのもとに、5演題を発表します。
1)甲状腺がん異常多発―手術例多発(発表者:高松)
2)福島甲状腺がん多発と放射線量の関係についての分析(山本)
3)国内原発周辺の小児がん・白血病のリスクーKiKK研究より―(入江)
4)鼻血など多数の症状が増加している(林)
5)福島避難者こども健康相談会を取り組んで(伊集院)

今回はそのうちの2題を紹介します。

1.甲状腺がん異常多発-手術例多発(高松さん)

【はじめに】福島原発事故の健康被害である18歳以下の甲状腺がん症例は103名にも上っている(2014年8月24日福島県第16回県民健康調査「甲状腺検(先行)」結果概要-6月30日現在での結果集計)。そのうち甲状腺がん手術例は57人に上った。今回の発表では従来明らかにされなかった手術適応が一部明らかにされている。今回57名もの甲状腺がん患者は、転移し明らかに悪性度の高いものや、声帯麻痺や気管を圧迫する可能性のある患者であり、臨床的にがん患者であった事実が判明した。従来は「甲状腺がんは最短で4~5年で増加したというのがチェルノブイリの知見。(事故後1年半から2年の)今の調査では、もともとあったがんを発見している」(福島医大・鈴木教授)、「20~30代でいずれ見つかる可能性があった人が、前倒しで見つかった」(検討委・山下座長)と語っていた。「超音波検査を実施したから偶然早く見つかっただけで、長期間経過をみても問題ない状態のがん患者」だという評価は事実に反するものであった。

【対象と方法】そこで我々は、福島県発見の甲状腺がん症例が、いかに多く手術されているかを検討した。手術実施率=手術患者数/一次検診受診者数×10万人。比較対象者は、国立がんセンタ-の日本全国の推定甲状腺がん発生率(15-24歳における年間100,000人中1.1例)(1975年から2008年)で、国立がんセンタ-甲状腺がん患者全例が手術を受けたと仮定して比較した。

【結果】手術実施率(対10万人当たり何人手術をされているかを表す)の検討結果は、2011年度が28.7、2012年度が14.7、2013年度が1.16、と2011年度と2012年度は異常に高かった。仮に、国立がんセンタ-の全症例が手術されたとして求めた手術実施率1.1の10倍から20倍以上の高さであった。【考察】福島県では極めて高い手術実施率を示しており、重症な甲状腺がんの多発は明らかである。今後の甲状腺がんのさらなる多発に備え、検診など医療体制の充実、甲状腺がん症例把握の拡大(19歳以上の年齢層や福島県以外の住民)。甲状腺以外のがん、がん以外の疾患への調査と対策の立案、今後、様々な健康障害が生じることへの対応などが必要である。なお、統計学的検討資料利用に快諾頂いた岡山大学大学院・環境生命科学研究科教授・津田敏秀氏に深謝申し上げます。

2.福島甲状腺がん多発と放射線量の関係についての分析(山本さん)

【はじめに】福島では小児甲状腺がんが103名になった。異常な多発(発見)であることに異論はないと思われるが、国や県は18歳以下全員に甲状腺検査をした結果である(いわゆるスクリーニング効果)と評価し、放射線被ばくによる可能性については検討していない。
チェルノブイリ原発事故後、国連科学委員会が唯一放射線被ばくとの関連
を認めたのが小児甲状腺がんであり、その根拠の一つが被ばく線量と甲状腺がんの量的関係の分析であった。
私たちは今回、発表されている限られた公的データの分析から、福島においても甲状腺がんと放射線被ばく線量との間に強い量的関係を示唆する知見
を得たので報告する。

【方法】2011年4月5-6日に文科省が福島県下全保育所幼稚園小中学校校庭で測定した市町村ごとの校庭空間線量を説明変数とし、2014年8月24日発表された市町村ごとの甲状腺がん頻度を
目的変数とした単回帰分析。校庭空間線量は低線量市町村から線量ごとに13に層別化。甲状腺がん頻度は一次検査実施時期による補正を行った。

【結果】直線回帰式の分散分析F=10.99>F(0.95)=4.84、P=0.0068と有意な回帰直線であり、重相関係数R=0.70と良い相関が得られた。線量を対数変換するとR=0.74とさらに良い相関が得られた。

【考察、結論】上記の分析からは、福島の小児甲状腺がんと環境放射線の間の強い量的関係、すなわち容量反応関係が示唆される。多発がスクリーニングによるか否かに係わらず、放射線被ばくに関連している可能性が高い。より精度を上げるための既存のデータの公開と、積極的な両者の関係についての分析が急務であると思われる。

入江診療所 入江