抗生物質の副作用(NEWS No.471 p07)

あるお子さんが5か月半の間に、中耳炎を2回した際に処方された抗生物質が、オゼックス15日間、ワイドシリン25日間、クラバモックス7日間、バクタ10日間、計57日間でした。しかも、抗生物質を飲んでいる間に私が見ますと、中耳炎はありませんでした。
小児科医になって以来○○年の私は、ずーと抗生物質の乱用をしないように発言したり、日本小児科学会と論戦したりしましたが、こういうのを聞くと、がっくりして、ついその耳鼻科医を批判してしまいます。
それでも、約10年ほど前に、NHKの「ためしてガッテン」が風邪に抗生物質が効かないとの番組を放映し、昔は「かぜにも使え」としていた日本の学会もだいぶ変わってきました。にもかかわらず、前述のようなむちゃな使用は後をたちません。

最近、お母さんにその害を説明するのに、分かりやすい副作用の報告に接しましたので、簡単にまとめてみます。

1、抗生物質への耐性増(薬が効かなくなる)

耐性にも2種あります。集団の耐性と、個人の耐性です。
<集団の耐性率>
これは例えば抗生物質をよく使う国では、耐性菌が増えるというデータです。ヨーロッパではよく使う国と耐性の率は極めてよく比例します。(Goossens H et al.Lancet2005;365:574-587)しかし、自分の子どもとは関係ないような気がするかもしれません。
<個人の耐性率>
呼吸器感染症(かぜや気管支炎など)に抗生物質を使うと、その個人個人の耐性菌保有率が2か月後でも2.4倍(OR:95%信頼区間CI:1.4-3.9)、12か月経っても、2.4倍(95%CI:1.1-4.5)になっていたとの研究を知りました(Costelloe C et al.BMJ2010;340:c2096))。「あなたのお子さんを肝心な時に守れるよう余分な抗生物質は飲ませないで」と言うと納得される方が多いようです。

2、その他

<難治性の腸管の慢性炎症(クローン病・潰瘍性腸炎)の増加>
フランスのプリスクリルによれば、英国調査で、17歳以下の子に抗生物質を1週間(中央値)使うと、これらの病気が、1万人・年当り(例:千人が10年間)、使わないと0.83人の発症だが使うと1.52人の発症(1.8倍)に増えるとしています。
オランダでは、使うと2倍(95%CI:1.1-3.2)、1歳以下で使われると6倍(95%CI:1.7-19.3)になり、フィンランドの調査では7-10コースの抗生剤投与で3.48倍(95%CI:1.6-7.3)になるとのことです。(Prescrire international 2014;23:238)
<肥満>
いろんな菌に効く「広域スペクトラム」の抗生物質だと、4回以上服薬で、肥満が1.11倍(95%IC1.02-1.21)になり、年齢が小さい方が、影響が大きかったとされています。(Bailey LC et al.JAMA Pediatr 2014; 168:1063-1069)
<急性脳症>
これは、フロモックスやメイアクトなどピロボキシル基という構造を含む抗生物質を使うと「カルニチン欠乏」となり、低血糖と急性脳症を引き起こすというものです。日本小児科学会誌に載りました。多くの被害者は何十日も服用していたようです。11か月から4歳までの13人が報告されています。全て日本人からの報告です。(西山ら、日児誌2014;118:812-818)

その他の下痢に始まり、多くの副作用があります。風邪には全く効かず、中耳炎も痛み以外には普通は効果がないこと、上述の副作用を伝えると処方しない意義をわかってもらえる方も多いようです。

はやし小児科 林