12月大阪小児科学会演題紹介(NEWS No.472 p02)

「福島原発事故‐健康被害の検討」
12月6日の大阪小児科学会には上の統一テーマのもとに、5演題を発表しました。
1)甲状腺がん異常多発ー手術例多発(高松)
2)福島甲状腺がん多発と放射線量の関係についての分析(山本)
3)国内原発周辺の小児がん・白血病のリスクーKiKK研究よりー(入江)
4)鼻血など多数の症状が増加している(林)
5)福島避難者こども健康相談会を取り組んで(伊集院)

前号に続き残り3題を紹介します。

3.国内原発周辺の小児がん・白血病のリスクーKiKK研究よりー

【はじめに】子どもたちの健康を保障するために、平常稼働中の原子力発電所周辺における小児の健康リスクについて、日本国内における状況を検討した。
【対象・方法】ドイツの2007年KiKK研究報告書および関連する文献により、原子力発電所からの距離と小児の発がんリスクの疫学調査を参考にする。国内原子力発電所54基の周辺自治体における5歳未満の人口を、平成22年度国勢調査をもとに抽出し、リスク範囲と大きさを考察する。
【結果】KiKK研究は旧西ドイツ領域の21基原発の周辺で、ドイツがん登録をもとに5歳未満の小児がん1592例を、4735例の無作為抽出対照群と比較し、発がんリスクを分析したものである。その結果、住居が原発から5km未満において、オッズ比で全小児がん1.61倍(95%CI 下限1.26)、全白血病2.19倍(95%CI 下限1.51)と有意のリスク上昇をみた。また全白血病、急性リンパ性白血病では10km、5kmでオッズ比に距離との間に有意の相関がみられた。日本国内の各原発立地点を中心に、それぞれ5kmと10kmの同心円を地図上に描き、範囲内の市町村小地域統計から5歳未満の人口を抽出した。発がんの明らかなリスクを認める5km圏内に居住する5歳未満の子どもは全国で約6000名であった。

KiKK研究のエビデンス

5km圏内5歳未満児の分布

【考察】ドイツ政府の後援、研究者の中立性、症例対照研究手法によって得られたKiKK研究のエビデンスは、原子力発電所再稼働による周辺の小児がん発生リスクの推定、予防対策に有用と考えられる。

4.鼻血など多数の症状が増加している

【はじめに】漫画「美味しんぼ」問題を契機に福島など被曝地域での多様な健康障害への関心が高まっている。いわゆる放射線医学の「専門家」たちは、被曝による障害の調査報告を検討せず、低線量被曝では鼻血がでるはずがない、との主張をしている。しかし、「鼻血」など多くの症状は、チェルノブイリでも、福島でも出ている可能性があり、今回この問題に関する文献的検討を報告する。
【材料・方法】被曝後の、鼻血を中心としたさまざまな症状に関する内外の調査研究を、GoogleやPubMedなどを使って医学論文や報告書をレビューした。主に「鼻血」についての調査報告があるデータを抽出し、検討した。
【結果】福島に関しては、津田らの被曝地域の福島県双葉町、宮城県吉野町でのアンケート調査が疫学的に優れたものであった。被曝をし避難をした双葉町でも、被曝はしたが避難しなかった吉野町でも、鼻血は被曝のない滋賀県の3倍以上であり、鼻血は被曝による障害を強く示唆するものであった。チェリノブイリ事故後の調査では、ARYNCHYNらの事故後4-15年後の調査があり、高被曝地域と低被曝地域との比較がなされ、鼻血の頻度は調査開始年にそれぞれ2.5%と0.5%、その2年後で3.8%と1.2%と、高被曝地域の方が高く、かつ継続することが示されていた。さらに、広瀬隆らのチェルノブイリ市などの避難民の調査では、鼻時の頻度は、対照のモスクワ市民の3.2%に対して20%程度であった。これらの調査では鼻血に限らず、身体がだるい、疲れやすい、頭痛、動悸、アレルギー症状など、さまざまな訴えが増加していた。
【考察】チェルノブイリでも福島でも被爆地では、「鼻血」を含む様々な症状が生じるとのデータがあった。医学は事実を明確にし、その対策を考えるものであり、既存の理論で事実を否定するものであってはならない。
【結論】福島の子どもたちに鼻血などさまざまな症状と病気が生じている可能性が高い。大阪小児科学会は、このような問題点を明らかにするための調査を、日児などに要請すべきである。

5.福島避難者こども健康相談会を取り組んで

【はじめに】福島原発事故後、放射線被ばくを避けるために関西地方に避難した子ども達を対象に、2012年4月と9月に取り組んだ「健康相談会」について第196回当学会で報告した。当演題はその続報で、約6カ月毎に開催した計6回の内容のまとめである。
【対象】 37家族73名(のべ55家族101名)、男32名・女41名、年齢6カ月から15歳。避難先は大阪府、京都府、兵庫県、奈良県、和歌山県であった。【結果】相談内容は、長引く避難生活の中で子どもの成長と共に出現する身体的・精神的な不安定さや被ばくによる健康不安や住居・経済的な生活不安の増強の訴え、帰還についての相談、事故後3年以上経ち複数回の甲状腺検査を受ける経過で有意所見が明らかとなった結果の評価説明や再検査の要望、成人が相談できる場が少ないため両親含めての相談など、相談の深刻さが明らかである。
【考察】1)避難者の多くは母子避難であり、家庭と社会生活に多大な犠牲を払って避難生活を続けている。2)初期の相談会には、微熱、鼻出血、倦怠感、頭痛、喘息の悪化、胃腸炎や口内炎の反復、親からの分離不安など多様な子どもの症状の訴えがあった。その後、福島県民健康管理調査にて甲状腺がんの発見が報じられ発見数が増えるに従い、甲状腺検査や再検の希望が増加した。特に本年8月公表されたように、103名と増加した甲状腺がん患者の中で57名は、リンパ節や肺などへの転移を認め明らかに悪性度の高いことや、気管に近接して圧迫や声帯麻痺の可能性などのために手術を受けていることが明らかとなり、多くの親が健康不安を強めている。3)更なる健康被害の増大を防ぐため、「低線量被ばくの危険性」を認識した放射能検診体制、「避難の権利」を保障して避難生活を支えるために「子ども・被災者生活支援法」の具体的実施が必要である。4)「相談会」のボランティア・スタッフは、避難者が健康や生活への不安を表出しつつ、「避難の正しさ」を医学的に確認する場となるように努力している。医師にとっては、避難者の現実に触れ、多くの親の思いに寄り添うと共に、何をすればいいのかを問い、様々な国から報告されている「低線量被ばくの健康障害」の調査研究を学ぶ機会である。

報告:入江診療所 入江