「抗インフルエンザ薬の積極的推奨は支持しない」と学会が表明(NEWS No.472 p05)

抗インフルエンザ薬に関するコクランシステマティックレビューの「結果として、抗インフルエンザ薬の効果は有熱期間の短縮のみであり、肺炎などの合併症予防効果や入院予防効果は明らかにされませんでした。逆に嘔吐などの副作用が増加することも示されています。すなわち季節性インフルエンザ患者、軽症患者全例を対照として、抗インフルエンザ薬の積極的推奨は当学会としても支持されないと考えます。」
みなさんは、この文章はどんな学会から出されたものだと思われますか?
実は、この文章は、11月5日付で、私たちが日本小児科学会に提出しました、抗インフルエンザ薬使用方法に関する要望書に対する学会からの12月22日付の「回答書」です。
コクランレビューとその詳しい紹介をしてくれた共同通信社の記事などの圧力によってか、軽症患者全例を対象とした抗インフルエンザ薬は推奨しない、というところまで学会として明言したわけです。これは、日常診療や学会でも十分使えるものですので、皆さんどうか宣伝してください。

しかし、「その一方で」として、日児はコクランレビューに含まれなかった「観察研究の多くで重症化予防効果が示されており、入院症例を対象としてメタアナリシスでは治療における致命率の低下、治療遅延による致命率の上昇があり、」として、「現存する最良のエビデンスは重症例における抗インフルエンザ薬による治療を支持するものと考えます。」などとしています。この根拠として引用された文献は、入院したインフルエンザ患者が抗ウイルス薬を使ったかどうかで、重症度を比較したデータを集めたものです。この方法は多くのバイアスが生じる可能性の高いものです。しかも、この研究はタミフルの製造販売会社「ロシュ社」の資金だけで行ったもので、これを「最良のエビデンス」だと持ち上げているわけです。
さらに、これもロシュ社の資金的腸でおこなわれたRCTを引用して、24時間以内に治療を開始したら「解熱短縮期間が3.5日にも上ることが報告されており」と強調しています。しかし、この論文を読んでみますと、発熱短縮は全インフルエンザで1.2日になっています。これは、私もよくやる単なる間違いかもしれませんが、この論文にはその他にも多数の問題があり、その批判は12月の臨床薬理研で報告しました。これら2つの論文批判は次号に掲載予定です。
「回答書」は、米国疾病管理予防センターCDCと米国感染症学会IDSAを引き合いに出して、「ハイリスク患者に対する推奨と健常人に対する抗ウイルス薬の投与を考慮する姿勢」だと自らの意見を権威づけしています。

私たちへの要望への返事は、1)備蓄は新型インフルエンザが対象だから必要、2)発熱期間の短縮だけなら抗インフルエンザ薬は不要、について、前述の学会の見解を参照(普通に読めば健常者には不要となります)、3)イナビルはタミフル耐性ウイルスに、ラピアクタは重症例への治療を想定しているとして、使用を限定しているところが前進です。
もちろんこれらにも反論する必要があります。反論内容を共に考えていただくようにお願いします。なお、この件については、来年の日本小児科学会でも発表する予定になっています。

はやし小児科 林