医療トピックス 新規睡眠剤ベルソムラは危険!(NEWS No.472 p07)

オレキシン受容体拮抗剤という新しい作用機序の睡眠剤であるベルソムラ®(一般名スボレキサント)が世界に先駆けて日本で最初に発売された。
依存性がないことを強調して売り込まれているが、重大な問題がある。
オレキシンは脳の覚醒を維持させる神経伝達物質で、ベルソムラはオレキシン受容体を遮断することで眠りを導く。半減期は約12時間で、実際の睡眠効果は6-8時間ほどであり、即効性もまずまずで、入眠障害と中途覚醒のどちらのタイプの不眠にもある程効果があるとされる。寝つくまでの時間を50%ほど短くし、総睡眠時間も長くしたとされている。また、12か月使用継続後の中断でも、依存性は認めなかったとされている。
ベルソムラは米国で発売が遅れている。FDAはベルソムラの問題点として、日中の突然の眠気、運転への支障、睡眠時行動異常(夢中遊行症いわゆる夢遊病、など)、自殺念慮、ナルコレプシー様症状を挙げている。自殺念慮は「軽度」とされているが、重大な有害事象である。特に高用量(30-40mg)で多い。
また、ナルコレプシー様症状が生じる可能性がある。ナルコレプシーは、睡眠発作や情動脱力発作などを特徴とし、オレキシン欠乏が原因だと言われている。FDAは「高用量のベルソムラは安全性に懸念がある」としている。運転や危険な機械の使用は避けるべきだ。
30mgや40mgは安全ではない可能性が高く、20mgでは運転に支障をきたす。肥満の女性やCYP3A4を阻害する薬剤を服用している場合は、15mgであっても30mgと同等の作用/副作用をもたらす可能性がある。しかし日本では15mg錠および20mg錠が発売された。

薬価はベルソムラ錠(15mg)89.10円、(20mg) 107.90円で、マイスリー(5mg)49.6円、(10mg)78.7円、アモバン(7.5mg)24.2円、(10mg)29.3円、レンドルミン(0.25mg)27.5円、サイレース/ロヒプノール(1mg)15.7/14.7円、(2mg)22.3/21.7円などと比較して、かなり高価である。

中医協総会では、ベルソムラ錠について、「潜在的なリスク」をめぐる議論があった。動物実験でナルコレプシーが見られていることから、診療側委員は、かつて乱用が問題になり処方医を限定する対応を取った中枢刺激剤リタリンのような厳しい管理が必要だと指摘した。これに対し厚生労働省は現時点でそうした考えはないとした。
日本では約6人に1人が不眠を感じ、約20人に1人が睡眠剤を内服していると言われる。一方で、従来の睡眠剤はバルビツール系、ベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系ともに長期処方、大量処方が多く、依存が問題になっている。睡眠剤依存の問題を逆手に取り、依存性が少ないことを強調してベルソムラで従来の睡眠剤を置き換える市場戦略があるのではないか?高価な割に効果はさほどではなく、重大なリスクもあるベルソムラは睡眠剤として不適格と考える。不眠に対しては、積極的な睡眠衛生の実践や睡眠日誌などを用いた認知行動療法などをまず試みるべきだと考える。

いわくら病院 梅田