くすりのコラム ピオグリタゾン(アクトス)の懲罰的賠償金(NEWS No.472 p08)

米国では日本企業が次々と賠償金や制裁金を請求されています。最近ではタカタのエアバックが全米でリコールされることになり、トヨタは5年ほど前の大規模リコール問題で12億ドルの制裁金を、三菱重工業は米カリフォルニア州の電力会社、サザン・カリフォルニア・エジソン社が所有する原発が同社製の蒸気発生器のトラブルで廃炉に追い込まれたとして、三菱重工に対し、廃炉費用を含む40億ドルの損害賠償を求められています。これらの訴訟は、日本の甘い審査体制、企業に有利な司法を放置してきたツケが回ってきたように思えます。将来、日本政府が推進した原発輸出で事故が起きた時、国内被害者を救済することなく海外の天文学的な賠償金を血税から支払うことになるかもしれません。多くの訴訟の中で武田もピオグリタゾン(アクトス)で多額の賠償金の支払いを命令されています。

ピオグリタゾン(アクトス)はチアゾリジン系薬剤で武田の販売する末梢神経のインスリン抵抗性を改善する糖尿病薬です。同系のトログリタゾン(ノスカール)は三共が日米で販売していましたが肝障害の死亡例が認められ発売中止になりました。またGSKが海外で販売していたロシグリタゾン(アバンティア)は心臓発作のリスクを高めることから欧州市場から撤退しました。
ピオグリタゾンはフランスの疫学研究(CNAMTS試験)で膀胱がん発生リスクは全体で、非使用者と比較して約1.2倍増加(HR※= 1.22 95%信頼区間1.05-1.43)する傾向が認められ、この結果に基づいて2011年にはフランス、ドイツではアクトスの使用を制限する措置が取られました。
近年ではピオグリタゾンが膀胱がんを誘発するリスクについて患者や医師に警告を怠ったとして武田、イーライ・リリーが米国で提訴された裁判の陪審による過去最大級の懲罰的損害賠償金額の支払いが命じられています。陪審員たちが裁判で問題とした「行動」の中に、アクトスの安全性に懸念があることを武田の複数の幹部が開発の早い段階から認識していたことを示す書類の破棄が含まれていたと報告されています。
一方、武田がペンシルベニア大学に委託して行ったインスリン抵抗性改善薬アクトス錠などピオグリタゾン含有製剤に関する10年にわたる疫学研究結果でアクトスによる膀胱がん発生リスクの有意な増加は認められなかったと発表しています。このデータは、日本の厚生労働省と医薬品医療機器総合機構(PMDA)、FDA、EMAなど各国の規制当局に提出され、厚労省は、まずPMDAでデータを評価し、その結果を踏まえ対応を検討するとしています。このような事態にもかかわらず、アクトスやその後発品、新しく発売された合剤が毎日沢山処方されています。武田は近年、高血圧薬ブロプレスで間違ったデータによるパンフレットを作製をした詐欺行為が問題になりました。武田が委託して行ったデータをもはや素直に信用することはできません。
米国の問題があっても規制は行わず使用し続け訴訟で多額の賠償金をとるというやり方には確かに疑問を感じます。しかし本当の過ちは、日本で消費者に耳を傾けず被害者を救済しない、データ捏造に対する制裁もしないことを許してきたことなのです。

薬剤師 小林