高騰する新薬の薬価が健康保険制度を脅かす(NEWS No.473 p02)

健康保険財政の窮乏が言われているのに、日本では「費用対効果」検討の導入がなかなか進みません。米国は企業が薬価を設定し高薬価ですが、欧州諸国は医療技術評価(HTA)を行い、高薬価を規制しています。「ハラヴェン」と「ソバルディ」を例にみてみましよう。

1) 乳がん治療剤ハラヴェン(一般名エリブリン、エーザイ)
ハラヴェンは、日本では中医協が「画期的新薬」として過去最高の薬価の40%加算を認めた薬剤です。2011年に薬価収載され、現在の薬価は1瓶65901円です(用法は週1回静注を2週連続1週休薬。このサイクルを反復)。しかし、承認情報公開資料をみると、生存曲線が18か月時点で交差し、その後はハラヴェン群の死亡が多いなどがわかります。
ドイツでは、IQWiG (医療の質・効率研究所)が2012年、ハラヴェンを既存品と比較して付加価値の証拠がないと厳しく評価しました。エーザイは追加資料を提出、IQWiGが再度評価しましたが、厳しい評価は変わらないと、スクリップ誌2014年12月14日号が伝えています。英国では、NICE(国営医療技術評価機構)がNHS(国民医療サービス)でのハラヴェンの採用を拒否、政府が特設したCDF(がん治療剤基金)がハラヴェンの費用を2011年以来負担してきました。しかし、CDFはこのほど費用対効果の観点で再評価を実施、2014年12月ハラヴェンはリストから削除されました。

2) C型肝炎治療剤ソバルディ錠(一般名ソフォスブビル、ギリアド)
ソバルディ錠は日本では未承認ですが、ウィルスの駆除率が100%近く、C型肝炎治療に画期的な進歩をもたらすと世界で注目されている新薬です。米国では2013年に承認され、薬価が1日10万円(1コース12週で800万円余)もすることが話題を呼んでいます。
独立医薬情報誌プレスクリル・インターナショナル2014年11月号は、高薬価には根拠がなく、高騰する薬価は公共の健康保険システムを脅かすとして抵抗を呼びかけています。欧州各国政府も、ポルトガルの医薬品規制庁Infarmdtが2014年の初めに共同調達を呼びかけました。また、フランスが呼びかけEU加盟国はギリアドに価格について議論する正式の会議をもつよう圧力をかけてきました。
スクリップ誌2014年11月24日号が、フランス保健省がソバルディを欧州一安い価格、1コース13667ユーロ(約185万円)で獲得したと公表したことを伝えています。他の国もギリアドと価格折衝をしており、この価格はドイツが19999ユーロ(約275万円)で獲得したものより安く、イタリアは9月に合意に至ったが37000ユーロ(約510万円)前後とみられ、英国NICEは35000ポンド(約609万円)で妥結しました。
なお、Journal of Hepatology誌の最近の論文は、HCVの最も感染割合の高い国であるエジプトがソバルディを12週900ドル(約100万円)で獲得する交渉に成功したと記しています。またピンクシート誌2015年1月5日号は、ソバルディが2014年9月末までに85億5000万ドル(約9300億円)の記録的な売り上げを達成したと伝えています。
日本では2015年の中ごろにソバルディの承認が見込まれており、薬価がどうなるか注目されます。

薬剤師 寺岡