日本小児科学会が抗インフルエンザ薬は死亡者を減らすとして紹介する論文も信頼できない(NEWS No.473 p07)

日本小児科学会が紹介する、もう一つのMuthri SG et al.2014の論文は、2009年のいわゆる豚インフルエンザ(A H1N1pdm09)大流行の時の入院患者のデータを世界中から集めて、その一部を分析したものです。抗インフルエンザ薬を投与していた患者の方が、投与していなかった患者より、死亡率が少なかったという結論を出しています。
タミフル・リレンザのコクランレビューにより、これらは肺炎などの合併症や死亡率を低下させる根拠がないとの結論が出ています。そのために「備蓄」と一般的な使用の中止を求める声が強くなっています。この論文は、このような流れを阻止するために、発表されたものと思われます。この論文には以下のような重大な問題点があります。
まず、子ども(<16才)では9,218人も分析しながら、有意な効果を証明できていません。むしろ、子どもには効果がないことを証明したデータですが日児はふれていません。
第2に、この研究自体がタミフルの製造販売企業であるロシュ社の費用でなされています。もし、効果がなかったと結論すれば、抗インフルエンザ薬の存在意義がなくなります。そのようなことをスポンサー企業が認めることは考えられません。

第3に、これは、RCTだけでなく、症例報告、ケースコントロール、コホルトなどの「観察研究」も含めて集め、再分析しています。後者はタミフルなどに有利な報告が多くを占めている可能性が大ですので、当然それらを集めた結果も同じになります。
第4に、BMJでマーク・ジョーンズ氏が指摘しているように、 補正前の分析では投与群と投与しない群では有意差はありませんが、補正後の分析では極端な差が出ていることです。
第5は、補正する際に入力するデータとして、病気の発症から受診までの時間が使われていないように思われます。発症から抗インフルエンザ薬使用までの時間にとても大きな影響を与える、発症から受診までの日数は、補正するうえで必須の項目と思われます。
第6に、2日以内に投与した群は、とても予後が良くなっていますが、2日を超えると、むしろ予後が悪くなる傾向が見られます。発症から投与までの日数別に見たリスク(ハザードリスク比)も、2日以内と比べて、3日は1.78倍、4日は1.80倍、5日では2.30倍と、とても高くなっています。これは、2日をすぎれば投与すべきでないことも示唆するものです。また、これは、前述の補正方法とも関連しますが、投与が遅れた理由は医療機関を受診したのが遅れたためとも考えられます。
第7は、豚インフルエンザ(A H1N1pdm09)の時、欧米と比べてタミフルを早期に多用(乱用)した日本が欧米より死亡率が少なかったとの菅谷らのデータを引き合いに出して、死亡率を下げる可能性があることしています。しかし、世界のタミフル量の8割を消費していた、前の数年間は日本の死亡率は欧米と比べむしろ高かったことは、私の論文(公衆衛生2011:75:120-12)で明らかですので、根拠になりません。

以上のように、この論文の信頼性はとても低いように思われます。少なくとも、日児が言うように、現在の最良のエビデンスなどとはとても言えないのです。

はやし小児科 林