福島で急性心筋梗塞が増加(NEWS No.475 p02)

前回、福島とその周辺で周産期死亡が異常に増加していることを報告しました。今回は、福島での急性心筋梗塞について検討します。
1、急性心筋梗塞の租死亡率
図1は、その粗死亡率(人口10万人あたり)の変化をトレンド分析したグラフです。2001年から2010年までの粗死亡率の回帰直線はy=2.319x+44.149となります。そのままの傾向で2011年を迎えるとすると、予想される値はXに10を代入して67.34となります。そして、この値の95%信頼区間は67.34±3.59となります。2012年は69.66±3.59となります。2011年と2012年の心筋梗塞の粗死亡率は、75.7と81.4で95%信頼区間上限の70.93と73.25を越えています。このことから福島での心筋梗塞の粗死亡率は2011年と2012年に統計的に有意に上昇したと言えます。
ただし、福島県は原発事故の後1年間で人口の3%が県外に流出していますので、粗死亡率の分母が減少しています。しかし、75歳以上人口は270,808人から277,976人と微増していますので、人口流出は心筋梗塞の死亡数にはほとんど変化を与えていないと考えられます。そこで、2011年以後も2010年の人口であったとして「人口流出を補正」しましたが、それでも2011年と2012年は有意な増加を示しました。(図では破線で示した)
2、心筋梗塞関連死因の割合の増加
この人口変動の影響を受けないようにするには、死亡数や「全死亡に占める死亡の割合」の変化を見るのも一つの方法です。ただし、東日本大震災では2011年に全体で2万人ほどが「その他の不慮の事故」(震災等)で死亡していますから、全死亡からその分を差し引いて計算する必要があります。
また、突然に急性心筋梗塞で亡くなった場合に、「虚血性心疾患」「不整脈および伝導障害」「虚血性心不全」「急性心不全」「突然死」などの診断名がつくことがあります。そのことが、「急性心筋梗塞」死亡数の動向に影響を与えています。福島では「急性心筋梗塞」と診断されることが多いのですが、東京都では「虚血性心疾患」とされることが多く、神奈川では「虚血性心不全」「急性心不全」とされることが多く、千葉では「不整脈及び伝導障害」と診断されることが多く、愛知では「突然死」と診断されることが多いのです。
そこで、人口動態調査の09200{簡単死因分番号}心疾患(高血圧性を除く)の内、09202急性心筋梗塞、09203その他の虚血性心疾患、09206不整脈及び伝導障害、09207心不全の4死因と283000その他の症状,徴候及び異常臨床所見・異常検査所見で他に分類されないものの内、老衰および乳幼児突然死症候群以外の283003を「突然死」として、それらを「心筋梗塞関連死因」として人数を集計しました。
5死因の合計数は、ほとんどの都道府県で増加傾向を示しました。全国的には2005年まで増加傾向が強く、その後緩やかになり、2010年から2012年までは横ばいで、2013年は下降しています。2012年の全死亡数は125万人で心筋梗塞関連死因が19.3万人(全死亡原因対する割合と95%信頼区間は15.48%±0.07%)、2013年の全死亡数は126万人で心筋梗塞関連死因が19.2万人(同95%信頼区間15.25%±0.07%)でした。
この点を踏まえて、福島の分析を行いました。福島の5死因の死亡数の年次推移を横棒のグラフに示しました。急性心筋梗塞の人数と心不全が増加傾向にあります。虚血性心疾患と不整脈及び伝導障害の人数の割合は少なくなっていますが、5死因全体は増加傾向にあります。そして、2011年はそれまでの傾向と比較しても大きく突出していました。

図3

さらに急性心筋梗塞関連死因の全死亡(その他の不慮の事故を除く)に占める割合について、トレンド分析をしました。

図4

福島の2004年から2010年までの過去7年間の傾向を回帰直線として表示しています。2011年の予想値の95%信頼区間が17±0.5%になります。福島の2011年の割合が17.8%ですから95%信頼区間の上限17.5%を上回っています。
この傾向は福島だけでなく、茨城、群馬でも2011年に有意な増加がありました。岩手、宮城、栃木、山形は単独では有意な増加を確認できませんでしたが、4県を加えると過去7年間の傾向から期待される95%信頼区間を上回っていました。
福島近隣の被曝県である岩手、宮城、福島、山形、茨城、栃木、群馬の7県をまとめて急性心筋梗塞関連死因のトレント分析を行いました。

図5

2011年の予想値の95%信頼区間は15.1±0.2%で、その上限値15.3%に対して、15.7%で上回っていました。2012年は95%信頼区間の上限値15.36%に対して、15.36%で一致していました。
被曝した7県に対して、その周辺の県を青森、秋田、新潟、富山、石川、福井、長野、岐阜と順番に東京、埼玉、千葉、神奈川などの大都市を外して、全死亡数が7県とほぼ同数になるように滋賀までの9県を選んで対照としました。
9県では過去7年の傾向の範囲内でした。以上より、心筋梗塞関連死因の割合も被曝により増加した可能性があります。
保健センター 森