日本小児科学会への抗インフルエンザ薬に関する要望書に対する回答が示されました。本ニュースでその積極的面についてお知らせするとともに、抗インフルエンザ薬の効果を証明しているとする文献の問題点をご紹介しました。臨床薬理研で討議していただき、再要望書を提出しましたので掲載します。ご検討ください。
(はやし小児科 林)
私どもの「抗インフルエンザ薬使用方法に関する要望書」に対して、昨年12月22日にご回答いただき大変ありがとうございました。「抗インフルエンザ薬の治療効果に関する学会の見解」が、まずコクランレビューの結果に基づく見解として、効果と副作用を考慮して、「すなわち季節性インフルエンザ患者、軽症患者全例を対象とした、抗インフルエンザ薬の積極的推奨は当学会としても支持されないと考えます。」と明言されたことを大変うれしく存じます。また、「回答」では、ラニナミビルはオセルタミビル耐性株への対応、ペラミビルは重症例への治療を想定しておられ、両剤の乱用に歯止めをかけておられます。この見解は、日本小児科学会五十嵐会長と予防接種・感染症対策委員会が、科学的立場に立つことを広く国民に表明したものとして歓迎いたします。また、長年日本小児科学会で勉強してきたものとしては大変光栄に思うところです。つきましてはこの見解を、学会員などに広く周知されるようにお願いいたします。ただし、後半に上げておられる、2つの論文につきましては、別紙に上げさせていただいた重大な問題点を含んでおります。特に、(Lancet Respir Med 2014;2:395-404)の論文では、小児について入院患者9,218人、死亡者325人を分析しながら、死亡率を下げることを示せていません。この、小児科学会として抜けてはならない重要な結果が、ご回答の記載から抜け落ちております。また、(Heinonen S, et al. Clin Infect Dis 2010;51:887-94)論文のデータのご説明で、解熱短縮期間を3.5日と書かれていますが、論文では1.2日になっています。この日数はコクランレビューの結果とほぼ同じです。この論文からは、抗インフルエンザ薬が、子どもでの死亡率を低下させる効果がないこと、他の研究結果からわずかな臨床症状の改善と引き換えに嘔吐などの副作用が生じることを考慮すれば、子どもには使用すべきでないとの結論が妥当と思われます。次に、要望へのご回答の中で、抗インフルエンザ薬の備蓄は、「重篤な経過が想定される新型インフルエンザへの備えなので、軽症のインフルエンザ症例を対象としたレビューから得られる結論とは想定が大きく異なります。」とされています。しかし、現在の備蓄の根拠となった論文はKaiserl2003のものであり、それは季節性のインフルエンザを対象としたRCTのレビュー論文です。その他には、タミフル備蓄の意義を証明する科学的なデータはありません。だからこそ、Kaiser 2003論文の信憑性が疑われ、2009年のコクランレビューが出た後、大問題となっているのです。また、イナビルに言及され「解熱までの期間という観点からは、他剤との同等性が示されている」とされています。しかし、同等性試験を検索いたしましたが見つかりません。先行薬との間に単に有意差がないとの論文のことではないでしょうか。私どもはイナビルの認可の際に提出された資料から別紙(医療問題研究会発行)のような分析をして、少なくともプラセボより早く熱を下げる効果は証明されていない、と結論いたしております。この見解を裏付けるものとして、世界的規模で臨床試験をしていたアメリカのBiota社が昨年8月に、イナビルの臨床的効果を証明できないため臨床試験から撤退する由を発表しております。そのようなものが、日本での販売がトップとなっている今、科学的レビューの必要性が高まっているかと存じます。以上より、再度の要望を以下のようにいたします。
- ご回答をいただいた内容のうち論文の紹介では、子どもでは死亡率を証明できなかったこと、発熱期間の短縮は1日程度であること、を明記して、ご見解を周知する。
- ご回答のようにイナビルはタミフル耐性に限定して使用すべきで、発熱期間の短縮に関する科学的に明らかなデータがないこと、アメリカBiota社の臨床試験から世界的には効果が認められなかったことを明らかにする。
- 科学的な評価をするために、日本開発の抗インフルエンザ薬のレビューをする。
以上を、再度お願いいたします。2015年2月27日