いちどくを この本『レントゲン、CT検査 医療被ばくのリスク』(NEWS No.475 p07)

『レントゲン、CT検査 医療被ばくのリスク』
高木学校 編著
ちくま文庫
900円+税
(NPO)原子力資料情報室の代表として「核・原子力の開発利用を市民の立場から鋭く批判し、反原発運動に大きな影響を与えた核化学者」であった、故高木仁三郎氏(2000年没)が、その著作「市民科学者として生きる」(岩波新書)のなかで述べられているのですが、「象牙の塔の外側で、市民と関心を共有し、その目の高さから市民と共に活動でき、しかもそれなりの専門性を有する科学者・活動家を育てたいと考え」1998年に始められた「プロジェクト」が「高木学校」です。
本書は、2008年7月に刊行されていた「『増補新版 受ける?受けない?エックス線 CT検査―医療被ばくのリスク』(七つ森書館)を原著にしていますが、2011年3月に発生した福島原発事故を受けて「大幅に加筆」されて2014年4月に発行されています。
執筆者の高木学校医療被ばく問題研究グループは、前出の書物では以下のように紹介されています。「世界でも突出して多い日本の医療被ばくを低減する取組みを行っている。医学・生物学の知見に学びながら、被ばく線量を記録する手帳や医療被ばくの解説書の頒布、市民講座、出前講座などを行い被ばくする側の市民の声を医療界、業界、行政に届ける試みを行っている。」グループメンバーの崎山比早子氏(元放射線医学総合研究所主任研究員)や瀬川嘉之氏(物理学専門)、ほか3名の方々による共著ですが、医学に関わる多くは、福島原発事故国会事故調・委員でもあった崎山氏が執筆されています。また、
2004年、イギリスの医学誌「ランセット」にオックスフォード大学ベリングトンらの研究グループによる「診断用X線による発がんリスク:英国および14ヶ国の評価」が掲載され、日本でも新聞報道されました。日本の医療被ばくは世界で突出して高く、日本のがん発症者の3.2%(年間7587名)は放射線診断による被ばくが原因で、その数は1年間の交通事故死に匹敵する人数である、また、その割合は調査された欧米など15か国の中で最も高く、イギリス、ポーランドの5倍との内容でした。
医療被ばく線量増大にCT検査の占める役割が大きいことは明らかにされており、アメリカやイギリスではCT検査適応の厳密化や被ばく低減対策の取組が進められているにも関わらず、日本では「CTの利益に比べれば個人のリスクは少ない(小児放射線学会)」と、行政、学術団体も国民の被ばく線量を下げる対策を始めるどころか、福島原発事故後は、「100mSv以下は大丈夫」と、一般公衆の被ばく線量限度を1mSvから20mSvに引き上げる暴挙を行っています。本書には放射線の基礎的知識とともに、「低線量被ばくの危険性」を示す多くのデータが紹介されています。「暴挙」を許さない力を蓄えるためにも、ぜひ読んで頂きたい書物です。
小児科医 伊集院