くすりのコラム 薬とは?(NEWS No.477 p08)

薬とは病気や傷の治療のために、あるいは健康の保持・増進に効能があるものとして、飲んだり、塗ったり、注射したりするものと定義されています。耳から入る音楽にも素晴らしい効果があれば医療として認めるべきではないでしょうか?日本では音楽療法について一定の効果が認められているにもかかわらず音楽療法士国家資格化や医療として保険点数化されることなく課題を抱えたまま作業療法の一環として位置づけられています。アメリカの音楽療法プロジェクトをまとめたドキュメンタリーを紹介します。

ドキュメンタリーAlive Inside 2014 LIMITED hd full documentary(ネットで公開中)「映画邦題:パーソナル ソング」 ではアルツハイマーや認知症の患者さんに、それぞれの思い出の曲をiPodで聞いてもらった様子が撮影されています。認知症にかかり何も思い出せない高齢の女性にルイ・アームストリングの「聖者の行進」を聞かせた途端に虚ろだった表情が一変し生き生きとしはじめ学生時代のことを語り始めたり、全く無反応で娘の名前すら思い出せない高齢男性がゴスペル曲を聞いた途端、目を見開いて手や足でリズムをとり始め思い出を流暢に話したりする姿が映っていました。このDan Cohen氏の音楽療法プロジェクトを追った医療ドキュメントは見ているものも笑顔にさせてしまう不思議な力があります。

ソーシャルワーカーで認知症の高齢者に対する音楽の効果的な使用法を研究しているDan Cohen氏が設立したNPO団体「ミュージック&メモリー」は介護施設や病院で高齢者の生活向上を目的とし個々に思い入れのある曲を選曲したデジタルプレイヤーの使用を提唱しています。
ニューヨーク在住の老年医学者Dr.Bill Thomasはドキュメンタリーの中で「現状の健康保険のシステムは、人間をまるで複雑な機械のように扱っている。ダイヤルを調節するように患者をコントロールできる薬は持っているのに、患者の心と魂に働きかけるようなことは一切しない。」
「ほとんど効かない薬を開発する費用に比べれば、アメリカ中の老人ホームにいる患者に、それぞれのお気に入りである、“パーソナル・ソング”を届ける方が、よほど効果的だろう。」「一ヶ月1000ドル(約10万円)以上の抗うつ剤を処方箋として出すことは簡単。しかし残念ながら音楽療法は医学的行為として見なされない。投薬がビジネスになっているのです。」とコメントしています。

科学的に証明しているはずの認知症薬をDr.Bill Thomasnは「ほとんど効かない薬」と表現していますが彼のコメントに反論が浮かぶでしょうか?偽薬どころか有害な健康食品やサプリメントを高額で売りつける悪徳業者と変わらない、データーの改竄や服用による有害反応の隠蔽など行い薬を売る製薬企業の弁護はできません。しかし、この音楽療法に信念をもって広めようと奔走するDan Cohen氏の姿には共感を覚えます。一体、私は何のために薬に携わっているのかと思うのです。

さあ、あなたの思い出の曲は何でしょう?
親が顔をしかめてあなたを見ていた、あの頃の曲です。

薬剤師 小林