5月の福島県甲状腺「本格調査」結果の評価(NEWS No.478 p05)

2014年4月から、2011年の原発事故当時18歳以下だった福島の小児に対し引き続き2巡目の甲状腺「本格調査」が始まった。あらためて2015年5月18日発表された経過についていくつかの分析を試みた。

1) 新たな15名の甲状腺がん発見は、甲状腺がんの潜伏期が短いことを示した
今回新たに発見された甲状腺がんは15名。そのうち8名は前回のエコー検査ではA1判定、つまりエコー上結節は発見されていなかった。前回検査からは2-3年が経過しているので、8名については(見落としの可能性はあるが、数名見落としたとすれば、この検査全体の精度が全く信用できないこととなってしまう)、0から前回検査後にエコーで診断できる大きさ(発見されたがんの結節は5.3mmから17.3mmの範囲だという)にまで大きくなったということを意味する。つまり福島で発見された甲状腺がんは2-3年の潜伏期で発見され得ることがあきらかになった。

2)結節の頻度は1巡目と比べ明らかに増加している
2011年度に先行検査を実施した12市町村について、今回の本格調査との結節率を比較してみた。表1のように本格調査では先行調査に比べ明らかに結節が多かった(χ二乗検定;P<0.01).各市町村別の率を比較しても同様であった(対応のあるstudent-t P=0.02)。結節の多いはずの年齢の高い層の受診は有意に本格調査の方が低く、この結節頻度の増加は明らかである。(表1)

(表1)

本格調査先行調査
5mm以上結節率280219
一次受診者数30,74741,810

3)甲状腺がんも増加している可能性が高い
同じ12市町村について甲状腺がんを比較してみた。(表2)

(表2)

一次対象数一次実施数
(率)
二次対象数
(率)
二次受診数
(率)
針生検数
(生検率)
二次受診者中
16-18歳数(%)
甲状腺がん数
(/10万)
先行調査47,76841,810
(88%)
199
(90%)
199
(46%)
91
(46%)
97
(49%)
14
(33.5)
本格調査49,45030,747
(60%)
281
(0.8%)
193
(69%)
22
(11%)
67
(35%)
8
(26.0)

表2で先行調査と本格調査では甲状腺がんの発見率に有意差はなかった。が、本格調査では先行調査に比べ人年比較をすると3年余分に観察しているので約1/3の頻度になるはずである。一方、図の二次検査対象数のほとんどは5mm以上の結節なので、二次検査対象数は本格調査の方が1.7倍高い。しかるに針生検は本格調査では約1/4以下となっている。同じ基準で針生検を実施していたとすれば本格調査では約6.8倍がんが発見される可能性があることになる(1.7×4)。一方、受診率で補正すると本格調査は約1.8倍。また、がん頻度の高い16歳以上の二次対象は先行調査の方が1.3倍多い。こういったもろもろの補正を行うと、本格調査は同じ条件とすれば8人の約5.6倍、44人程度となり、有意に先行調査より高い発見率となる。
以上の分析から、福島の甲状腺がんは予想を上回るスピードでの増加を示していると考える。これはスクリーニング効果では説明できない。

大阪赤十字病院 山本