被ばくが甲状腺がん多発の原因と認めないための「過剰診断説」(NEWS No.479 p01)

政府は、福島県での甲状腺がん異常多発の原因が被ばくであることを隠すための「理論」を「スクリーニング説」から、「過剰診断説」に変更した様です。前者ではごまかしきれなくなった多数の手術例をごまかす手段かも知れませんが、こんな説に驚くことはありません。
この説は環境省専門家会議などで以前から出ていましたが、採用されませんでした。しかし、5月18日の福島県民健康調査検討委員会甲状腺部会で、「過剰診断(生命予後を脅かしたり、症状をもたらしたりしないようながんの診断)・・・・の可能性が高いとの意見があった。」と、再び浮上してきました。6月30日には先の専門家会議を仕切ってきた長瀧重信氏が原子力委員会で「過剰な診断、過剰な治療なのではないか、という考え方があります」と報告し、7月6日には山本太郎参議院議員の質問に対し、環境省が「過剰診断の可能性が高いとの意見があった旨が記載されております」と答えています。

「過剰診断」とは、決してがん検診だけでなく、高血圧・脂質代謝異常・糖尿病から遺伝子診断まで、広く問題になっています。ギルバート・ウェルチ著北澤京子訳「過剰診断」にも、検討委員会の定義とほぼ同様に「決して症状が出たり、そのために死んだりしない人を、病気であると診断すること」と定義され、「過剰診断」に伴う様々な検査・治療が不要で有害なことが証明されています。
福島の甲状腺がん多発が、「生命予後を脅かしたり、症状をもたりしたりしないようながんの診断」とするなら、大人になって症状が出るとする「スクリーニング説」と違い、将来も症状もださないという主張になります。

私たちも一部の過剰診断がある可能性は否定しません。しかし、福島県で発見された甲状腺がんは約30万人当たり126人です。全国の罹患率は対30万人当たり1人(0-19歳;2010年)です。福島が全国と変わりない罹患率だとすれば「過剰診断説」では126人中ほとんどの人が、今も将来も症状がでないことを示さなければなりません。9割が「過剰診断」だとしても、残りの1割でも全国平均の12.6倍です。その検証もなしに「過剰診断」だとし、被ばくとの関連を否定することはできません。
さらに、彼らは、福島の甲状腺がん以外に、がん検診をはじめ多くの明白な「過剰診断」を止めるよう訴えるべきですが、それもしていません。

たとえ、どんな説が出てきても、福島では、1)チェルノブイリ周辺での検診結果との比較、2)地域の汚染度との相関性と、地域差、3)全国甲状腺がん罹患率との比較により、異常多発は明白です。
「過剰診断説」などでごまかそうとせず、甲状腺がんや、今後予想される、被ばくによる広汎な障害を最小限にするための対策を実施すべきなのです。

はやし小児科 林