臨床薬理研・懇話会6月例会報告(NEWS No.479 p02)

Ⅰ.シリーズ「統計でウソをつく法」を見破る 第4回プラザキサRE-LY(信頼)の試験結果は信頼できない

今回は著名医学雑誌に掲載されたランダム化比較試験(RCT)論文の実例を批判的に検討しました。抗凝固剤プラザキサ(一般名ダビガトラン)のRE-LY試験論文です(NEJM2009; 361: 1139-51)。脳卒中や全身性塞栓症などを予防する抗凝固剤療法は、用量が少ないと脳卒中・心筋梗塞などを予防できず、過量では重篤な出血の危険をともなうリスクの高い薬物療法です。

従来はワルファリンが血液凝固能モニタリングによって用量を調整しながら用いられてきましたが、近年プラザキサなどの新薬が50年ぶりに相次いで発売されました。ワルファリンと比較し何十倍も高価ですが「面倒な血液凝固能モニタリングがいらない」との大宣伝とガイドラインの強引な推奨で広く使われています。プラザキサの承認の根拠となったのが、ワルファリンと比較した大規模比較臨床試験RE-LY(44か国、18113症例)です。
モニタリングなしの2用量のプラザキサとモニタリングされたワルファリンとを比較し、プラザキサはモニタリングしたワルファリンに勝るというのですが、RE-LY(信頼)と名付けられたこの試験のプラザキサが勝るという結果は下記の理由などから信頼できません。

  1. RE-LY試験でのプラザキサのワルファリンとの比較は二重遮蔽試験(DB)でなくオープン試験(PROBE試験)での非劣性試験です。医師も患者もワルファリンとプラザキサのどちらかがわかっており、バイアスがかかります。同じベーリンガーインゲルハイム社が関与した別の適応に対するワルファリンとの比較はダブルダミー法を用いたDB試験で行われており、DBは可能です。
  2. RE-LY試験は脱落が多く信頼できません。脱落はプラザキサ群に多く、全体の害作用や重篤な害作用による中止もプラザキサ群に多いです。浜(薬のチェックTIP2015年5月号)は、プラザキサ群でワルファリン群の1.6倍の脱落があり、しかも主エンドポイントの10倍もの脱落があったため、RE-LY試験のプラザキサが主エンドポイントで優れていたとの結果は信頼できないと結論しています。
  3. 対照群のワルファリン群のデータが信頼できません。ワルファリン群での凝固能(INR)コントロールが劣っています。FDAの審査報告書はワルファリンのINRが67%以下の治療域にある症例で比較すれば、死亡の相対リスクは1.05でワルファリン群がプラザキサ群に勝ることを記しています。カナダの独立医薬情報誌Therapeutic Letter誌は、複合有効性アウトカムにも安全性アウトカムにも影響する頭蓋内出血が、他の多くの報告では年0.2-0.4%であるのに今回の試験では0.76%と異常に高く、ワルファリン群はsomething unusualなことが示唆されると指摘しています。
  4. 心筋梗塞に対し、プラザキサはワルファリンに有意に劣る結果でした。

この論文は2009年NEJM誌に掲載されましたが、都合の悪いことは書かない不十分な論文で、FDAの審査結果のサイトに大事なデータがあります。RE-LY試験では、血漿濃度との関係も検討されていましたが、この結果がJ Amer Coll Cardiol誌に掲載されたのは何と5年後の2014年です。この論文の結論には「個々の患者のベネフィット・リスクは選ばれた患者の特性(characteristics)を考慮した後でプラザキサの用量を個別調整する(talloring)ことで改善し得る(might be improved)」と書かれています。

薬剤師 寺岡