臨床薬理研・懇話会7月例会報告(NEWS No.481 p02)

Ⅰ.シリーズ「統計でウソをつく法」を見破る 第6回
プラセボ(シャムオペレーション)群を置くのはやはり大切

今回はニューイングランド医学雑誌の論文です(NEJM 2014; 370: 1393-1401)。

3種の降圧剤を用いても治療抵抗性の高血圧(>160mmHg)に対して、腎除神経術(RND)が注目されています。
理論的には、腎動脈から発信される神経刺激が中枢を刺激して交感神経を活性化させ、高血圧をもたらすことは動物実験からも確認されており、腎臓からの神経遮断は理に適っています。

先行する遮蔽されていないランダム化臨床試験(Lancet 2010)は、大腿動脈から挿入したカテーテルを両側の腎動脈に導き、高周波で周囲の腎神経の活性化を抑制することで治療抵抗性高血圧の血圧が減じることを示唆していました。
Lancet誌論文の図をみると、クリニックで測定した血圧が施術後1~12か月で段々ときれいに下がっています。
そうしたデータですでに欧州の一部、南アメリカ、オーストラリア、カナダを含む80か国以上ではすでに承認され、製品化されています(「Symplicity 腎除神経システム」、Medtronic社)。

今回の臨床試験(SYMPLICITY-3試験、試験期間は6か月間)は、米国FDAの承認を得るために、厳しいデザインの試験を行ったものです。1)単遮蔽の採用、2) 対照群に模擬手術の実施、3))服薬遵守を厳格に調査、4) クリニック来診時の血圧だけでなく24時間血圧を調査(いわゆる白衣高血圧効果の排除)、などがその特徴です。

その結果は、SYMPLICITY群の有効性はプラセボ(シャムオペレーション)群とまったく変わりませんでした。
試験結果は、世界各国で実施したRegistry1000症例で確認された安全性結果とともに、2014年3月30日の米国心臓学会(ACC)63回学術セッションで発表されました。
同日のプレスリリースでMedtronic社は、SYMPLICITY HTN-4試験を中断、HTN-Japan, HTN-India試験については現地の医薬品庁と相談する、すでに承認されている国での販売とRegistryは継続すると発表しました。

今回の結果がNEJM誌に論文発表されたことは良いことですが、プラセボ(シャムオペレーション)群を置く大切さを改めて教えてくれています。

薬剤師 寺岡