文献紹介(NEWS No.482 p06)

本年7月、毎日新聞に見出しが「低線量被ばくでもリスク」と書かれた記事が載りました。イギリスの医学誌ランセット・ヘマトロジーに掲載された疫学調査結果の報告記事でした。WHOの外部機関である国際がん研究機関(IARC:International Agency for Research on Cancer) が原子力施設労働者を対象として低線量被ばくによる白血病増加を明らかにした論文です。
序論は以下の内容でした。
「放射線治療以外では高線量電離放射線被ばくは稀であるが、低線量で反復性・持続性被ばくは過去25年間にわたって、ますます一般的になってきている。職業上や環境上の被ばく源は重要であるが、医療被ばくは最も大きく、この傾向に寄与している。1982年USAでは年間平均の医療被ばく線量は一人当たり、約0.5mGyであったが、2006年までには3mGyに増えていた。同じパターンが他の高収入の国々にも在り、UK(イギリス)では、放射線診断処置の使用が同じ期間で2倍以上になり、オーストラリアでは3倍以上になった。電離放射線は発がん物質なので、医療業務での使用は患者の被ばくに伴うリスクとのバランスを取らなければならない。
電離放射線被ばくの発がんリスク評価の第一の根拠は1985年8月広島・長崎原爆による日本人被爆生存者での疫学的研究である。原爆投下数年以内で被ばく者に白血病、主に骨髄性の過剰発生の証拠があった。これらの発見は電離放射線は白血病の原因となることを確立することには役立った。しかし、この証拠は概して急性・高線量被ばくに関係している。反復性・持続性低線量被ばくに伴うリスクは公衆衛生従事者にとって、より多くの与を有している。
国際原子力施設労働者調査(INWORKS:International Nuclear WORKers Study)は、低線量で持続性または間歇的な被ばくから人々を防護する科学的根拠を強めるために施行された。
この研究は、個人線量計で外部被ばく量をチェックされているフランス、UKとUSAの労働者を対象とした。彼らは被ばく後60年までフォローされた。この論文で我々は、INWORKS対象者での白血病、リンパ腫および多発性骨髄腫のデータを報告する。」
研究期間は3ヶ国全体で1944年から2005年までの60年間、研究規模は、フランス・UK・USAの原子力施設に少なくとも1年以上雇用された308,297人の被ばく量管理を受けた労働者を対象として、経過観察期間は822万人・年の大きさです。
医問研編著「低線量・内部被曝の危険性」で紹介しました「15ヶ国原子力関連企業労働者のがん研究」(Cardisら:2005年)で対象となった白血病死の80%以上はINWORKS参加3ヶ国からのデータで、この研究はCardisらの研究を引き継いだ結果を報告しています。赤色骨髄での累積線量の分布は、対象者の約75%(約22.5万人)は0~10mGy(≒mSv)の範囲内、90%は40.8mGy以下です。労働期間中の平均累積線量は15.9mGyで、中央値(この値の上下で同数の観察数)は2.1mGy、年間平均被ばく線量は1.1mGyでした。そして、白血病(慢性リンパ性白血病以外)による死亡者の53%は累積線量0~5mGyの範囲内から生じていました。INWORKSでは、1000mGyの被ばくを受けると白血病死亡は、3.96倍になるとの結果です。これらの数値を見ていると、本年6月安倍内閣が閣議決定した「年間被ばく線量50mSv以下での避難指示を2017年3月までに解除する」との内容が如何に非人道的かを再確認できます。
著者らの要約「この研究は持続性低線量被ばくと白血病死亡との関連を強く証明する。現在の放射線防護体系は急性被ばくから引き出されたモデルに基づいており、単位線量当たりの白血病リスクは、低線量では徐々に減少すると仮定されている。我々の結果は環境・医学診断・職業被ばくに特徴的な範囲の持続被ばく線量リスクの直接評価を与える。」  小児科医 伊集院