くすりのコラム 薬と犯罪(NEWS No.482 p08)

「Operation PANGEA」は国際刑事警察機構(ICPO)、世界保健機構(WHO)、世界税関機構(WCO)の主導の下、各国の警察などがインターネット上で模造、違法医薬品の広告・販売を一斉に取り締まる国際共同キャンペーンです。
今年は6月に115ヶ国で行われ、日本でも向精神薬の違法販売などの事件が報道されています。

10年ほど前、職場の10代の女の子がクラブで知り合った男の子に合コンで飲み物に何かを入れられました。男の子たちの挙動から不審に思い席を立った女の子たちは帰宅途中で皆眠ってしまい、それぞれ警察や駅員に保護されたそうです。
笑いながら不思議そうに何飲まされたんだろうと話す女の子に「レイプ薬」と呼ばれる薬の説明をしました。薬物混入は傷害事件だと説明し通報を勧めましたが、証拠の飲料も置いてきたしクラブで知り合ったという相手の連絡先も分からない、それにお母さんに怒られると彼女は言いました。
睡眠薬には服用後入眠までの出来事を覚えていない、途中覚醒時の出来事を覚えていないという一過性前向性健忘が現われるものがあります。
薬が効いている間の出来事について記憶が曖昧になり被害にあっても証言することが困難になります。このような犯罪を防止する目的のため、フルニトラゼパムに青色の着色剤が添加されるようになりました。
しかし厚生労働省は飲料に混入されたときに色調が変化するように製剤を変更するよう製薬会社に指導しただけで、味を変えることまでは要求しませんでした。
照明の暗い店で濃い色の飲料に混入すれば分からないかもしれません。
米国ではフルニトラゼパムは承認されておらず、また米国への持ち込みは一切禁止され、違反すれば厳しい罰則があります。

薬局に警察の捜査官が来たことがあります。
塩酸クロルプロマジン、塩酸プロメタジン 、フェノバルビタールが検出された遺体が見つかったが薬局の患者さんではないかと惨たらしい写真を持ってこられました。
別の事件でも海から上がった遺体の一部から同じ三成分が検出されたと聞いたことがあります。
これらの成分は統合失調症,老年精神病,躁病,うつ病又はうつ状態,神経症などの鎮静催眠に用いられる合剤と同じ成分です。
フェノバルビタールの血中半減期は37~133時間もあり、服用経験のない、つまり薬剤耐性のない人が服用した場合、普通では考えられないような長時間ぐっすり眠ってしまう薬なのです。

真摯に医療に取り組んでいる医療関係者ほど薬と犯罪が結びつかないようで、このような話を知人にすると一様に驚きます。
自分が調剤した薬にまつわる自殺や事件があっても警察から直接耳に入ることはありません。
薬を使った犯罪はネット社会の発展によりさらに身近な問題になりました。
「Operation PANGEA」を主導している機関のように現場サイド(警察・医療・メーカー)の情報の共有化・対策が急がれます。

薬剤師 小林