臨床薬理研・懇話会10月例会報告(NEWS No.483 p02)

Ⅰ.シリーズ「臨床薬理論文を批判的に読む」第8回
「このJAMA誌論文の掲載価値を考える」

取り上げた論文は、「心房細動がある、あるいはない心不全を有した患者における虚血性脳卒中、血栓塞栓症、死亡の予測におけるCHA2DS2-VAScスコアの評価」、 JAMA 2015; 314(10): 1030-1038です。

取り上げたきっかけは、この論文についてJ-CLEAR(臨床研究適正評価教育機構)の2人の医師が、対照的なコメントをケアネットに寄せていることでした。
N医師はこの論文を掲載したJAMA誌に掲載価値があるのかと疑問を述べているのに対し、G医師は著者の着眼に理解を示すとともに、結果が示唆していることも臨床医に意義があるとしています。

抗凝固剤は過量になると重篤な出血をきたし、不足量だと効果を示さず脳卒中などが起こる、リスクの高い薬物療法です。
血栓塞栓を生じやすい心房細動患者において、抗凝固剤ワルファリン投与によって副作用を上回る有効性が担保される患者を見出す目的で用いられるのが、血栓塞栓症リスクを評価しスコア化したCHA2DS2-VAScスコアです。うっ血性心不全(1)、高血圧(1)、75歳以上(2)、糖尿病(1)、脳卒中/TIA(一過性脳虚血発作)/血栓塞栓症(2)、血管系疾患(心筋梗塞既往、PAD(末梢性動脈疾患)、大動脈プラーク)(1)、65〜74歳(1)、女性(1)の合計点です。
今回のJAMA論文は、このCHA2DS2-VAScスコアを心房細動のない心不全患者に用いても有用なことが予測されるといっています。

デンマークのレジストリーデータを用い、心不全発症の診断を受けた42,987例についての前向きコホート試験データを分析しています。
高スコア(4以上)群では、虚血性脳卒中、血栓塞栓症、死亡の絶対リスクが、心房細動の有無にかかわらず高値で非常に類似していました。
しかし予測精度は中程度であり、心不全患者でのスコアの臨床的有用性は確定的なものではないとしています。

N医師は心房細動のない患者にCHA2DS2-VAScスコアを用いてみただけで、予測精度が中等度であったことからもあまり意味がなく、心房細動がない心不全患者を対象に血栓塞栓症などの因子を分析するオーソドックスなやり方から始めたほうがいいという意見です。

一方G医師は、心不全、血管病、高血圧が心房細動の有無にかかわらず脳卒中発症の独立した危険因子であることはFramingham研究から明らかになっていたことなどから、CHA2DS2-VAScスコアが一般的な脳卒中発症予測にも利用価値があるのではと考えるのは極めて自然としています。
心房細動ばかりが特別でなく、CHA2DS2-VAScスコアがそれ以外の症例にも脳卒中などの予測に役立つことを臨床医が認識することは意義のあることとしています。

当日のディスカッションでは、デンマークのレジストリーのように全国的な集積がなされていることは意義が大きい、Table3の心房細動のあるなしのデータが酷似しているのが注目される、両医師が言われていることにはそれぞれもっともな面があり、論文の掲載価値がないとまでいうのは言い過ぎではなどの意見がだされました。

薬剤師 寺岡